ロシアによるウクライナ侵略(ロシア・ウクライナ戦争)は、核大国であるロシアが、かつて世界第3位の核兵器配備国(保有国ではない)であったウクライナに対し、核兵器の使用をちらつかせつつ国際法上正当な理由がないまま攻撃を行ったということで、軍事戦略上の核兵器の役割や国際政治における核兵器の意義にも注目が集まることになった。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は本当に核を使うのか、使うとしたらどのような状況において使われるのかという問いは、この戦争の帰趨を論じるうえで重大な意味を持つ。あるいは、核兵器の使用に至らずとも、ロシアによる信憑性を伴った核の恫喝は、核を持たず、核大国による脅威に悩む国々に対して、改めて米国から提供される、拡大核抑止を含む同盟国防衛のコミットメントの重要性を印象付けた。日本ではにわかに核共有に対する関心が高まり、安倍晋三元総理をはじめとする政治家がその可能性に言及し、ある世論調査では国民の8割が核共有について議論すべきと考えているとの結果も出た。また、従来非常に注意深くロシアとの間合いを測りながら安全保障を追求してきたフィンランドとスウェーデンが、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請し、同盟の「核の傘」の下に入ることを決断した。核兵器の存在が改めて見直されることになったのである。
ロシア・ウクライナ戦争における核の側面は、国際社会の核に対する認識や行動を変えつつある一方、戦争がどのように終わるのかを待たずに、これからを論じるのは早計ともいえる。しかし、今後の核抑止と核をめぐる大国間関係、とりわけ核リスク管理のあり方はロシア・ウクライナ戦争前と戦争後では変化するのか、変化するとしたら、核をめぐる関係性を規定する要素のうちどれが影響するのかを現段階で整理することは意味のあることだ。
冷戦期を通じて構築されてきた米ロ間の軍備管理制度は、ロシア・ウクライナ戦争を契機としてその歪みを顕在化させ、米ロの二極構造は終焉を迎えようとしている。そして中国を含めた新たな大国間の戦略的関係と、新たな制度設計思想に立脚した軍備管理のあり方を模索する時代に入る。本稿は、核軍備管理の変容に着目し、ロシア・ウクライナ戦争が真の意味での冷戦の終焉であり、それが新たな大国間関係の構築にどのような意味を持つのかを論じるものである。……