急病人は症状の軽重を判断できるのか
高齢化社会によって急病患者が増加し、救急出動件数が10年前と比べて100万件以上増えている。その結果、救急車が現場に駆けつける時間が延伸し、現場から病院到着までにかかる搬送時間も年々遅くなっている。だから国はそれを抑えようと、「救急車の適正利用」を盛んに呼びかける。
〈救急車を呼ぶか、病院へ行くかどうかを迷ったら救急相談ダイヤル「♯7119」の活用を〉〈安易に救急車を呼ばないでください〉などというフレーズを耳にしたことがある人は多いだろう。
相談ダイヤルでは医師や看護師、救急救命士らが患者の病気や症状を把握しようと努め、救急車を要請したほうがいいかどうかのアドバイスを行う仕組みだ。これにより緊急度が振り分けられるため、救急車を呼ぶことを控えた人は少なくないはずだ。実際に救急車出動台数の減少に貢献していることがわかっている。
「読売新聞」(2026.4.24付)社説でも〈安易な利用を抑制できるか〉と題し、〈軽症者による安易な救急車の利用を抑制せねばならない〉と記されていた。
だが、「♯7119」を利用して「緊急性が低い(だから救急車を呼ばなくても良い)」と判断された場合、それが医学的に正しかったのか、という検証は甘いのではないだろうか。実は重症だったという人もいるかもしれない。
筆者は、患者側が自分で軽症だ、重症だと最終的な判断をする仕組みに無理があると考える。これまで取材してきた全国の救急医も、「軽症の顔をして重症だったケースは山ほどある」と話す。例えば――これは実際にあった出来事だ。
57歳男性が前の晩に会社の新年会で少し飲みすぎた。朝食を食べ始めた頃から胸の重苦しさがあったという。その数時間後に男性は救急外来を受診。救急医が診察すると、「お酒の匂い」以外は特段変わった様子は見受けられなかったものの、男性の「冷や汗」が気になって血液検査と腹部CT検査を指示したという。結果的にCT撮影中にその男性は急性心筋梗塞によって意識をなくしてしまった。しかし救急医による的確で早急な処置の結果、その後に男性は回復したのだった。