化学の分野には、「立体異性体」というものがあります。分子式(原子の構成)は同じでも、原子の立体的な配置が異なるのです。そのなかでも、互いに鏡に映したような関係にあるものを「鏡像異性体」と言います。
鏡に映したような関係の典型例とされるのが、右手と左手です。そのため、「鏡映関係にある相棒を持つ」という性質のことを、ギリシャ語の「手」(Χειρ)に由来する専門用語で「キラリティー」と言います。右手に相当するものを、ラテン語の右(Dexter)から「D体」、左手に相当するものを、ラテン語の左(Laevus)から「L体」と言います(ここではD体/L体の正確な定義には立ち入りません)。
さて、面白いのはここからです。実験室で人工的にキラルな分子を作れば、基本的にはD体とL体が同じだけ生じます。まあ、そうでしょうね。原子分子レベルの物理法則は左右を区別しませんから。ところが驚くべきことに、私たちの身体を作っているアミノ酸はなぜかL体ばかり、糖はD体ばかり、その他キラルな分子はみな、どちらか一方だけなのです。自然は対称的なのに、知られている限りあらゆる生命は、キラリティーが極端に偏っている!