医療・ウェルネス

あなたの寿命を左右する「疲労対策」を「食事・睡眠・寝具」で考える

2026年6月21日


<span>あなたの寿命を左右する「疲労対策」を「食事・睡眠・寝具」で考える</span>
カギは「ホルモン」にあり?

情報の渦に巻き込まれながら、膨大な仕事量をこなす……現代人が心身ともに疲弊してしまうのも当然だ。果たしてどう対処すべきなのだろうか。「ホルモン」から見た、疲労対策の新常識を紹介。

数字が示す「疲れは寿命を縮める」の証拠

 疲れが溜まっていて仕事に集中できない、疲れ過ぎていて朝起きるのもつらい……。

 普段、私たちは「疲れ」という言葉を何気なく口にしていますが、果たして疲れとは何なのでしょうか。昭和的な雰囲気が色濃く残る環境では、ややもすると「気持ちの問題」「精神が弛(たる)んでいる証拠」などと、いまでも根性論で片付けられてしまいがちです。

 しかし、疲れの正体は、結局は根性の問題であるといったような実体がつかみづらい曖昧模糊としたものではありません。疲れとはホルモンバランスの乱れによって引き起こされる、れっきとした生理現象なのです。したがって、当然のことながら根性で疲労を癒(いや)すことはできません。

 そう言われても、程度の差はあれ誰もが疲労を感じているのだから愚痴をこぼさず頑張り続けるしかない――そう軽く考えている人には、ぜひ次の事実を知っていただきたいと思います。

 疲れ。それはあなたの寿命を縮める脅威になり得る、と。

 こう警鐘を鳴らすのは、東京女子医科大学の市原淳弘特任教授(高血圧・内分泌内科)だ。ホルモンや代謝・血圧調整の専門家として疲労対策の啓発に努めてきた。

 以下は、疲れを「気の持ちよう」として軽んじている人たちが知らない「疲労の新常識」である。

 休日を利用してしっかりと休んだはずなのに疲れがとれない。誰もが経験したことのある「疲労あるある」ではないかと思います。実際、厚生労働省の調査では、日常的に疲労を感じている人の割合が実に約60%にも達しています。疲労した状態を放置し、疲れを蔑(ないがし)ろにするとどうなるのか。

 例えば、週に55時間以上働く人は、週に35~40時間働く人に比べ疲労が蓄積しやすく、脳卒中のリスクが1・33倍になるという調査結果があります。また、慢性疲労症候群という状態になると、うつ病発症の確率が約3倍、ウイルス感染リスクが約3・5倍と、疲労以外の病気・症状を併発しやすくなり、さらに、健康的な人と比べて自殺率が約5倍になるとの報告もあります。まさに「疲れは寿命を縮める」証拠です。

 なお、慢性疲労になると仕事にも支障を来(きた)すため、生涯賃金で約2800万円もの損失を被るとの試算もあり、疲れを放っておくと「健康」も「お金」も失われてしまうのです。「たかが疲労」などと根性論で軽視できるものでは到底ないことがお分かりいただけるのではないでしょうか。

 では、時に「死に至る」とすら言える疲労にどう対処すればいいのでしょうか。その解説に入る前に、内分泌代謝科専門医である私の立場から、「疲労のメカニズム」について説明したいと思います。

 一口に疲労と言ってもさまざまな種類があり、大きく分けると脳疲労、精神疲労、身体疲労の三つが存在します。そのいずれの疲労も組織や臓器の「炎症」の表れです。

慢性疲労を引き起こすホルモン分泌の「異常」

 炎症が軽いうちは、副腎から分泌されるコルチゾールというストレス対応ホルモンの働きによって炎症が抑えられます。

 しかし、心身に過度な負担が掛かる状態を放置しておくと、コルチゾールが大量分泌されるにも拘(かかわ)らず炎症を抑えきることができなくなり、炎症に伴って生み出される活性酸素が脳や血管、さまざまな臓器を傷つけ、脳卒中等のリスクが高まります。また、免疫細胞も炎症への対処を余儀なくされる分、体内に侵入し悪さをしようとするウイルスなどに対応しきれなくなり、感染症に罹るリスクも増してしまいます。

 なお、ホルモンは600種類以上存在するとされ、現在、はっきりと分かっているものは約50種類あります。そのなかで、幸せホルモンと呼ばれるセロトニン(主に腸管粘膜で分泌)、睡眠ホルモンとして知られるメラトニン(脳の松果体で分泌)、覚醒スイッチをオンにするオレキシン(脳の視床下部外側野で分泌)、ピンチになると心拍や血圧を急上昇させて疲労を感じさせないようにするアドレナリン(副腎髄質で分泌)、そして前出のコルチゾール(副腎皮質で分泌)が、疲れに対応してくれる「五大ホルモン」です。

 これらのホルモンが過剰分泌あるいは枯渇しているサインが疲労なのです。そして疲労は、「なんとなく疲れた感じ(1)」という軽度の状態から、「身体がだるい(2)」「本格的な疲労が出てくる(3)」「もう動きたくないと心身が悲鳴を上げる(4)」と重症度が高まり、(4)の状態が6カ月続くと「慢性疲労」となり、朝、寝床から起き上がるだけでもまるで登山するかの如き重労働に感じられるようになってしまいます。

 ここまで説明してきた「疲労のメカニズム」を踏まえた上で、科学的、医学的に私たちはどう疲れに対処すべきなのか、ここからは「疲労対策」について話したいと思います。

 まずは「疲労と食」に関して。

 細胞を傷つける活性酸素は、実に1日7リットルも体内で生み出されています。損傷した細胞を修復するには、その材料となる栄養素を摂取することが不可欠です。実際、食事内容を見直すだけで、疲労感が44%減少したという報告もあります。

 食事で疲労を軽減する基本は三つで、脳疲労には野菜をはじめに食べる「ベジ・ファースト(血糖値の急上昇を防ぐ)」、身体疲労には「運動後30分以内に糖質とタンパク質を摂取」、精神疲労には「発酵食品と食物繊維の摂取(「脳腸連関」を活用し、腸の調子を整える)」です。

 この三大原則を押さえたところで、より具体的な対策を検証していきましょう。

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