国際

「日本分断」に用いられる中国の「認知戦」「影響工作」の実態

2026年6月26日


<span>「日本分断」に用いられる中国の「認知戦」「影響工作」の実態</span>
中国政府がいつでも動員できるXアカウントは500万~1000万

世界では今、SNSを駆使した「情報戦争」が激化し、目下、日本に対し中国が攻勢を強めている。彼らはどのような手法で広大なネット空間において工作を行っているのか。国際政治や影響工作に詳しい一橋大学大学院法学研究科教授の市原麻衣子氏が解説する。

SNSを使った手法が目立つ「認知戦」

「認知戦」というのは、安全保障に関わる概念です。サイバー攻撃のように特定の機関を狙って情報を操作するのではなく、安全保障の安定に影響を与えるような動きを指します。具体的には特定の問題を取り上げて、論争を引き起こさせる動きを指します。例えば「米軍基地の使用を認めるかどうか」「軍事費の増強を認めるかどうか」といった安全保障上の問題について、社会の中でコンセンサスが得にくくなるような状況を作り出すのです。人々の認知に影響を与えることが特徴で、近年では、SNSを使った手法が目立っています。例えば、女性の人権、女性天皇、夫婦別姓など、人々の意見が分かれるテーマに関する投稿をして対立を煽るのです。

 認知戦や影響工作は、以前は日本で研究している人がほとんどおらず、長らく知られていませんでした。私は2019年にこの分野の研究を始めたのですが、そのせいで当時は「日本では影響工作が行われていない」というのが一般的な認識でした。しかし実際に調査を進めると、すでに工作は行われていたのです。

「影響工作」と「認知戦」はほぼ同じ意味で使われることが多いのですが、ニュアンスには違いがあります。認知戦は「戦い」という言葉が含まれる通り、双方向の総合的な動きを想定します。相手からの心理戦に対してこちらがどう対処するかという防御も含めた概念です。一方、「影響工作」は恣意的な情報操作によって一方的に影響を与えようとする動きを指します。そのため「影響工作」にはSNSなどデジタル空間での情報操作だけでなく、オフライン空間における経済制裁、外交的圧力、越境弾圧といった手法も含まれます。

 中国の場合、ロシアと比較してサイバー空間とオフライン空間をよりはっきりと組み合わせたやり方を取っている点が特徴的です。たとえば「エリートキャプチャー(要人取り込み)」と呼ばれる買収工作があります。エリートキャプチャーとは、政治家のほか企業トップなどを買収し、中国政府のプロパガンダに沿った主張をさせたり、行動させたりする手法です。

 象徴的な事例がオーストラリアでありました。オーストラリアは2017年頃まで中国との貿易関係を重視した対中アプローチを取っていましたが、2018年、ある議員が中国に取り込まれていたことが明るみに出ると、国民的問題に発展しました。その結果、中国によるスパイ活動やエリートキャプチャーに関する規制が強化され、対中関係は急速に悪化、対中認識も悪化していきました。日本でも同種の工作が行われている可能性は否定できないというのが実情です。

認知戦はいつ始まったのか

 2003年に中国人民解放軍は「三戦」と呼ばれる戦略を採用しました。三戦とは心理戦・法律戦・世論戦の三つを指します。要は戦わずして勝つために、情報操作によって世界で覇権を取ろうと考えたのです。ただし2003年当時はまだデジタル空間が大きく広がっていなかったので、当時は新聞などの伝統メディアを使った直接的な手法が中心でした。ネットメディアでの活動が活発化したのは、習近平政権の発足(2012年)頃からだと思われます。中国が本格的に影響工作を始めたのは英語圏諸国が最初で、米国・カナダ・英国・オーストラリアの現地中華系新聞などを通じたものが中心でした。その後、対象は西ヨーロッパ諸国、そしてアジアへと拡大していきます。本格化したのは2022〜2023年頃です。

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