政治

統一を放棄した「朝鮮総連」に存在意義はあるのか? 5万人まで減った「同胞」

2026年6月29日


<span>統一を放棄した「朝鮮総連」に存在意義はあるのか? 5万人まで減った「同胞」</span>
今年5月下旬、都内で開催された朝鮮総連の全国大会の様子(筆者撮影)

朝鮮総連の綱領が22年ぶりに改訂され、「統一」という文言が削除された。総連の幹部は「同胞には説明済み」と語るが、実際には採決の場で異例の反対票が投じられるなど波紋を広げている。弱体化が著しい組織のさらなる求心力低下につながるか注目される。

 在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)が、結成以来70年間にわたって活動の根幹に位置づけてきた「祖国の自主的平和統一」という目標を、綱領から削除した。北朝鮮の朝鮮労働党トップである金正恩総書記は2024年に韓国との平和統一放棄を宣言しており、上部組織に足並みをそろえた格好だが、組織内には戸惑いの声もある。朝鮮総連は支持者の減少や財政難に歯止めがかからず、今後の組織運営が大きな課題となっている。

北朝鮮に対する「愛国」が前面に

 今年5月23日から2日間、東京都北区の東京朝鮮文化会館で開かれた朝鮮総連の「第26回全体大会」で、新綱領が決定された。朝鮮総連が綱領を改定するのは22年ぶりとなる。全体大会は4年に1度開かれる総連の最高意思決定機関で、全国から約1500人の代議員が集まった。

 2004年に定められたこれまでの綱領では、第6条に「6・15北南共同宣言の旗じるしのもとに、在日同胞の民族的団結と北と南、海外同胞とのきずなを強化・発展させ、反統一勢力を排撃し、連邦制方式による祖国の自主的平和統一を成就するために全力をつくす」と記されていた。2000年に韓国の金大中大統領と北朝鮮の金正日総書記の首脳会談で採択された「6・15北南共同宣言」(筆者注:韓国や日本では一般的に「南北共同宣言」と表記される)は、統一運動の核心として位置づけられてきた。朝鮮半島統一は朝鮮総連にとっても悲願だったが、新綱領からは「統一」という文字そのものが消え、韓国への言及もなくなった。

 代わりに新綱領が強調するのは「愛国愛族」と「同胞第一主義」だ。「すべての在日同胞を朝鮮民主主義人民共和国の周りに総結集させ、同胞たちの権益擁護とチュチェ偉業の全面的勝利のために献身する」(第1条)、「すべての活動を同胞第一主義で一貫させ、各界各層の在日同胞たちの無窮の力によって愛国愛族運動を繰り広げる」(第2条)。朝鮮半島規模の大義から、日本社会に生きる在日コミュニティーへと、視線が内向きになった印象だ。一方で、前綱領では「愛族愛国」だったのが「愛国愛族」と順序が逆にされたことは、北朝鮮という「祖国」への帰属を前面化する意図の表れとみられる。

日本との国交正常化を目指す「平壌宣言」も削除

 新綱領では「朝日平壌宣言」(日朝平壌宣言)への言及も削除された。同宣言は2002年、金正日総書記と当時の小泉純一郎首相が署名し、日朝双方が国交正常化に向けて努力することを確約した文書だ。

 旧綱領の第5条では「朝日平壌宣言にのっとり、在日朝鮮人の地位を高め、すべての民主主義的民族権利と国際法において公認されている合法的権利を完全に行使するようにし、あらゆる民族的差別と迫害行為に反対する」とされていた。同宣言は日朝国交正常化への唯一の合意文書であり、日本政府による植民地支配への反省と不幸な過去の清算、そして核・ミサイル問題の包括的解決に向けた努力が盛り込まれている。

 専門家の間では、核・ミサイル開発を進め、非核化に応じない金正恩氏の方針が反映されたとの見方が出ている。日朝国交正常化という長年の目標もまた、現実的な射程から外れつつあることを示唆している。拉致問題が未解決のまま、綱領から平壌宣言の文字が消えたことは、日朝間の「対話の窓口」としての朝鮮総連の位置づけにも影響しかねない。

 新綱領でも第8条で「自主・平和・親善の理念のもとに、日本人民をはじめとする世界の進歩的人民との連帯を強化し、チュチェ偉業と在日同胞たちの愛国愛族活動に有利な国際的環境を整える」と記されていることから、日本社会との関係構築の必要性は認識しているようだ。ただし、その具体的な基軸をどこに置くのかは見えてこない。 

 こうした変化は、北朝鮮の政策転換と軌を一にしている。金正恩氏は2024年1月、最高人民会議での施政演説で韓国を「第一の敵対国」と位置づけ、平和統一の放棄を宣言。南北間の協力事業を全面撤廃し、統一を念頭に置いた各種機構の廃止も進めた。さらに、朝鮮半島を「二つの国家」として位置づける「二国家論」を鮮明にし、南北の同民族性を否定する方向に舵を切った。核保有国としての地位を確立した北朝鮮が、もはや「対話による統一」という建前を必要としなくなったとの見方が有力だ。

 朝鮮総連幹部は「政策転換については、これまでも同胞社会に説明してきた。綱領の改定について特に驚きはないはずだ」と述べた。しかし実態は、幹部の言葉が示すほど穏やかではない。

高齢世代の複雑な胸の内、若年世代の冷めた視線

 全体大会の出席者によると、綱領改定の採決で一部が反対し、慣例となっている全会一致にはならなかった。総連内部では大会前から、綱領改定に関する事前説明が不十分だとの不満があったが、大会当日も反対意見を述べる機会は与えられなかった。それが採決での反対票につながったとみられる。全体大会の模様を伝えた総連の機関紙『朝鮮新報』の記事では、そうした部分は一切触れられなかった。

 総連の活動家で関東地方に住む60代の男性は「統一の旗を降ろすのは、これまでの活動を否定された気持ちだ」と率直に語る。朝鮮半島が日本の支配から解放された後、在日朝鮮人1世が「祖国統一」を生涯の目標に掲げて活動を続け、2世・3世へと受け継いできた。朝鮮総連の中堅活動家は「『統一』という言葉があったからこそ、私たちは活動を続けてきた。それは単なるスローガンだったのかと、今さらながら考えてしまう」と、複雑な胸の内を明かす。

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