質問者ではなくテレビカメラに語り出した首相
国会で審議などの運営にかかる費用は、1日あたり約3億円との試算がある。
ならば、高市首相の「中傷動画問題」を巡る終わりの見えない国会論戦で、失われた我々の血税はいくらになるのか。イラン情勢に伴う経済安保問題、物価高対策から消費減税のあり方など、国会で議論すべき重要課題は山積している。
にもかかわらず、この1カ月の国会審議は「中傷動画問題」に多くの時間が割かれてきた。昨年10月の自民党総裁選や今年2月の衆院選で、高市陣営が対立候補の誹謗中傷動画を作成してSNSに拡散させた疑惑。6月22日に行われた衆参予算委員会の集中審議でも、高市氏は野党議員から集中砲火を浴びた。
政治部デスクが言う。
「これまで野党が質してきたのは、高市氏の公設第一秘書である木下剛志氏が、誹謗中傷動画の作成と拡散を起業家・松井健氏に依頼したのかどうかです。この日の質疑で挙がったのは、両者がグループLINEでやり取りをしていたのではないか。また今年3月に首相の名前を冠した仮想通貨として問題となった『サナエトークン』についても、木下秘書は松井氏にお墨付きを与えていたのではないか。一連の疑惑を問われた高市氏は感情を露わに反論しました」
自らの潔白を証明したかったのか。純白の装いで答弁に臨んだ高市氏は、国会中継を担うNHKのテレビカメラの方へと視線を向けて自説を述べたのだった。
「あえて国民に訴えかけようとするパフォーマンスなのかもしれませんが、質問者に向かって答えない首相など前代未聞です。高市首相は“政治家になって以来、他人の誹謗中傷など一切せず政策だけを語ってきた。それは秘書もよく理解している”などと、自らの信条を延々と語ったのです」(同)
さらに高市氏は、こんな“秘策”まで口にした。
「中傷動画や仮想通貨の疑惑対応に追われて、睡眠時間や首相としての業務時間にも支障が出ていると訴えた。その上で、木下秘書の陳述書や関連資料を後日提出することで、答弁としたいと述べたのです」(同)
これにも野党は“国会軽視だ”“書面で幕引きを図ろうとしている”などと猛反発。あくまで木下秘書の証人喚問を求めて審議拒否をチラつかせるなど、国会は空転の兆しを見せている。
「高市氏は“秘書に確認したが、松井氏とは面識がない”と繰り返し述べるだけで、疑惑を報じた週刊誌が示した数々の物証について、何ら具体的に反論できていません。答弁にはブレがあって訂正に追い込まれる事態になっています」(同)
だが、高市氏への攻勢を続ける野党に水を差す出来事が、国会の外では起きていた。これまで野党が、中傷動画疑惑の動かぬ証拠として、金科玉条の如く国会で取り上げてきた『週刊文春』の特集記事について、重大な疑義が生じたのだ。
『週刊文春』検証記事に載った「他人事のようなコメント」
同誌を発行する文藝春秋は、6月16日に週刊文春電子版の公式サイトで、以下のような発表を掲載した。
〈4月29日から公開している高市早苗首相に関する記事について、一部の動画に時系列上の問題点が確認されたため、関連動画の公開を一時停止し、併せて本文も修正しました〉
〈今回の訂正は一部動画の時系列に関する部分にとどまります。高市事務所が総裁選や衆院選において、動画などで対立候補に対する誹謗中傷を行っていた事実関係は、複数のSNS上のメッセージなどによって裏付けられています。疑惑の根幹を揺るがすものではないと認識しています〉
かような事態になった経緯を『週刊文春』は6月25日号の特集記事「高市首相『中傷動画』全ての疑問に答える」の中で説明した。疑義が生じた動画を検証した結果、〈松井氏側が作成したもののうち、四本の動画に時系列上の齟齬がある写真が使われていることが判明した〉と明らかにしたのである。
これまで同誌は、4月末から6週連続で、木下秘書と手を結び中傷動画に手を染めたとする松井氏の実名告発記事を掲載してきた。その中で疑惑の根拠となる“証拠”に重大な欠陥があったというわけだ。
当然ながら、文春は件の釈明記事の中で、こうした事態になった理由を松井氏に問い質している。
その回答は、松井氏の代理人である弁護士を通じてなされたとして〈スタッフに動画データの復元・探索を依頼し、見つかったものを文春側に転送しました。このような事態になって驚いています〉などと、まるで他人事のようなコメントを紹介しているのだ。
実は一連の文春報道に対しては、ネット上で再三「中傷動画に使われている写真の時系列がおかしい」との指摘が上がっていた。
「私も実際に確認しましたが、例えば文春が昨年の総裁選で流されたと報じた小泉進次郎氏への中傷動画には、フィリピンで今年2月25日に撮影された写真が含まれていたのです」
とは、ITジャーナリストの篠原修司氏だ。
「その写真はエドゥサ革命40周年にあたる日のデモだと推察できましたが、撮影した本人に確認すると、案の定、その通りでした。これは総裁選も衆院選も終わった後になりますから、対立候補を中傷するための動画に入れられることはありえません。これが、いつ、何のために作られたのかは、もはや提供者である松井氏本人にしか分からない。彼から納得できる説明がないかぎり、証拠として使えるものではありません」(同)
中傷動画の存在を伝えた文春報道後、大手メディアの共同通信も、松井氏への取材を行った上で同様の記事を配信。結果的に記事の訂正を余儀なくされた。
再び篠原氏に聞くと、