医療・ウェルネス

人生100年時代の難問「脳の老化」は「会話のコツ」習得で予防できる

2026年6月27日


<span>人生100年時代の難問「脳の老化」は「会話のコツ」習得で予防できる</span>
会話は脳の状態を映す“鏡”

ボケずに生涯を全うしたい。人生100年時代の最大の望みのひとつと言えよう。そのために食や運動に気を配る人も多いが、「一生使える脳」を実現するもうひとつのカギは「会話」にあるという。

「一生使える脳」を実現する鍵

 理系人間で学究肌の私は、以前は世間で言う「堅物」だったと思います。例えば、旅行先でパシャパシャと写真を撮る人に対して、正直、こんな感情を抱いていました。

「なんて無粋な人なのだろう。落ち着いて感動を味わえないものだろうか」

 しかしそんな私が、認知機能に関する研究を続けてきた結果、いまでは“完全なる無粋人間”に変貌してしまいました。旅先に限らず日常生活で、何か少しでも面白いことがあれば写真に撮って記録するのが習慣になっているのです。

 何事も面白がる。実はこれこそが、脳の老化の悪影響を小さくするための大切な第一歩となることが明らかになっています。みなさんも、もっと人生を面白がり、“無粋”に生きてみませんか?

 こう誘(いざな)うのは、理化学研究所でチームディレクターを務め基礎研究を推進するとともに、NPO法人ほのぼの研究所で代表理事・所長として、認知症を予防する生活習慣の普及に取り組む大武美保子氏だ。

 ロボット工学を専門とする大武氏は、大学生の時に祖母が認知症を発症。その経験から、認知症の発症を遅らせることを目的とする会話支援手法「共想法」を開発する。

「一生使える脳」を提唱する大武氏が、共想法、そして日常生活で実践できる認知機能を鍛える方法について解説する。

 人生100年時代を迎えているいま、健康上の最大の懸案と言えば「脳の老化」ではないでしょうか。実際、がんを抜いて「最もなりたくない病・症状」のトップは認知症という調査結果もあり、何歳になっても認知機能を維持し、最後まで人生を豊かに過ごしたいと願っている人が多いことが分かります。

 そこで、クロスワードパズルなどの脳トレが人気ですが、“お勉強感”があるため、なかには取り組むのに抵抗を感じる人もいるかもしれません。そんな人たちに向け、より身近な生活習慣にちょっとした工夫を加えることによって、認知機能を維持し、脳を長持ちさせる方法を紹介したいと思います。私たちの「脳の寿命」を延ばしてくれるごく身近な生活習慣、それは、誰もが普段何気なく行っている「会話」です。

 私は、各自がテーマに沿った写真を持ち寄って順番に会話するという、認知機能の維持・向上につながる「共想法」というメソッドを開発し、20年弱にわたり延べ1万人超の参加者に実践していただきました。

 そしてこの活動を通じ、実に多くの人の会話を耳にしてきました。その結果、人の会話を聞くと、その人の脳が心配な状態かがある程度分かり、脳の動きを覗いていると実感するようになりました。つまり、会話を聞けば、それが脳を長持ちさせる話し方かどうかが分かる。それほど、「会話」はその人の「脳の使い方」を表していると言えるのです。

脳が老化しても認知機能の低下を防ぐ「認知的アプローチ」

 例えば、高齢者のグループ会話の録音データを解析すると、たくさん話すのに合わせて使う言葉の種類が増える人は、認知機能が高い傾向にあることが、判明しています。他方、たくさん話しても使う言葉の種類が少ない人は認知機能が低い傾向にあります。記憶機能が下がると、一度話したことを覚えておらず、同じ話を繰り返すため、言葉の数に対して種類が増えないという現象が起きるのです。

 このように、会話はその人の脳の状態を映す“鏡”のような存在であるわけですが、逆に言うと、会話を通じて脳の使い方を変えれば、認知機能を活用して「一生使える脳」にしていくことが可能なのです。

 脳の老化の予防、具体的には老化の三大要因である糖化、酸化、慢性炎症を防ぐために、ジョギングなどの有酸素運動をしたり、抗酸化作用のある食材を積極的に摂取したりするやり方を「生理的アプローチ」と言います。

 一方、会話の仕方など、脳の使い方を意識することによって、たとえ脳が老化しても、認知機能の低下を防ぐやり方を「認知的アプローチ」と呼びます。共想法は、まさにこの認知的アプローチのひとつです。脳の老化により神経細胞の数が減っても、認知機能の発揮に必要な、神経細胞同士のつながりを維持することを目指す。これが老化の悪影響を小さくすることにつながります。脳の老化と認知機能低下にはある程度関係がありますが、ずれがあるのです。

 共想法では、複数の人が集い、ふたつのルールに基づいて会話をします。ひとつは、先ほども述べたように設定されたテーマに合わせた写真およびそれに付随した話題を各自が持ち寄ること。もうひとつは、参加者各人が「話す」「聞く」「質問する」「(考えて)答える」を順番に一定時間の範囲で行うことです。

 このふたつのルールを守ることによって、自分が話したい内容だけを話したり、自分の聞きたい話のみに耳を傾けたりということができなくなります。つまり、普段とは違う脳の使い方を余儀なくされる。これが「一生使える脳」を実現するためのキーポイントなのです。
 脳の重さは成人で体重の約2%に過ぎないにも拘(かかわ)らず、全エネルギー消費量の約20%を占めます。そのため、脳はできるだけエネルギー消費の無駄を省くようにできています。神経細胞のあるつながりが活動すると、その他のつながりの活動が抑えられるといった具合に。

 そして、「活動が抑えられたつながり」が一時的ではなく継続的になると、「不要なつながり」として扱われ、つながりが弱まったりなくなったりするリスクが高まってしまいます。すなわち、使わない神経細胞同士のつながりがあると、そのつながりがあることで発揮できる認知機能が低下する危険性がある。それを防ぐためには、意識的に神経細胞同士のさまざまなつながりを活動させる必要があるのです。

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