一方通行な「特定利用」の現状
昨今、民間の空港に自衛隊機が離着陸する機会が増加している。その機種はC-130輸送機からF-15戦闘機に至るまで多種多様である。
背景にあるのは、「特定利用空港・港湾」に関する制度だ。同制度は、2022年に策定された国家安全保障戦略における「総合的な防衛体制の強化」及び「公共インフラの整備や機能の強化」という方針を具現化し、指定された空港では自衛隊・海上保安庁の航空機による離着陸が行われるとともに、滑走路延伸や駐機場整備が推進されている。(図1)
2026年4月現在、21道県の24空港・33港湾の計57カ所が特定利用空港・港湾に指定、または指定予定されている。利用実績は公表されていないが、例えば、過去最大規模となった自衛隊統合演習が実施された2025年10月には延べ16機のF-15戦闘機と2機のT4練習機が南紀白浜・鹿児島・徳之島・奄美の4空港に離着陸している(筆者調べ)。また、防衛省資料によれば、九州・沖縄地域に所在する6カ所の特定利用空港は指定日から今年4月初旬までの間に延べ183回利用されている。(表1)
国(自衛隊)による民間アセットの利用が広がる一方、民間による国アセットの逆利用は、いまだ公の検討の俎上には載っていない。そこで、本稿では「大規模震災等の発生時、民間航空機による自衛隊航空基地の利用は可能か?」という論点を提示したい。
その理由は、性能上は民間機も離着陸可能な自衛隊基地が、未活用のまま宝の持ち腐れとなっているからである。実例として、2011年3月の東日本大震災では、米国籍のデルタ航空やユナイテッド航空などが横田基地に緊急着陸する中、日本の航空会社は自衛隊基地を使うことができず、関西空港や新千歳空港など遠方の民間空港に目的地変更(ダイバート)せざるを得なかった。
この非対称性は、日本の空の制度的弱点を示している。もちろん、自衛隊基地へ民間機を受け入れるためには、解決すべき課題が複数存在する。本稿ではこれらの課題を正面から論じた上で、制度実現に向けた段階的なロードマップを提示したい。
3.11の教訓――米軍基地に降りられなかった日本の民間機
2011年3月11日、日本の空は行き先を失った多くの旅客機で溢れかえっていた。当時の報道によれば、羽田空港と成田空港が同時に閉鎖されたため、着陸予定だった86機がダイバートを余儀なくされ、うち14機が燃料不足で「緊急事態宣言」を出した。86機の主なダイバート先は、新千歳・中部・関空をはじめとした全国の空港であり、中には遠く福岡や那覇に向かった航空機もあったが、デルタ航空やユナイテッド航空などの米国系エアラインは東京都内にある横田基地にダイバートしたと米軍機関紙で報じられている。
旅客機は航空法の規定に基づき、飛行計画の段階で目的地(destination)に加えて代替目的地(alternate aerodrome)を設定し、燃料も代替目的地までの所要量を搭載している。経済性の観点から見れば、目的地と代替目的地は近ければ近いほど効率が良い。例えば、目的地が成田であれば羽田を、伊丹であれば関空を代替空港として選択することになるだろう(ただし、運用上の都合や整備能力等の事情から最寄りの空港以外を代替目的地に選定することもある)。つまり、3.11の時のように、羽田(目的地)及び成田(代替空港)が同時に閉鎖される事態は、パイロットや航空会社にとって青天の霹靂とも言える状況だったのである。
日本の航空会社が横田基地を利用できなかった最大の理由は「日米地位協定」及び航空法の枠組みにあったと推察される。横田基地は地位協定上の「合衆国軍隊が使用する施設及び区域」であり、在日米軍の承認があれば米国籍の航空機は着陸できる。一方、日本の航空法の管理下にないため、日本の航空会社がダイバート先に横田基地を選定することは、混乱した状況下では特に障壁が高かったであろう。
ジェット旅客機が着陸可能な自衛隊基地は12カ所
日本には空港が約100カ所あり、民間企業が管理する「会社管理空港」(例:成田空港・関西空港)、国土交通省が管理する「国管理空港」(例:鹿児島空港・那覇空港)、地方自治体が管理する「地方管理空港」(例:富山空港・神戸空港)、自衛隊や在日アメリカ軍と民間で共用する「共用空港」(例:千歳空港・三沢空港)などに分類されている。
そして、上記以外にも長大な滑走路を擁した「自衛隊専用の航空基地」が多数存在する。防衛白書によると、固定翼機が運用可能な自衛隊の航空基地は約20カ所、うち12カ所はジェット旅客機が離着陸可能な2000メートル以上の滑走路を有している(筆者調べ)。
つまり、日本にはジェット旅客機が離着陸できる空港が合計で約120カ所ある。自衛隊航空基地と民間空港が近くに分布する例もあり、例えば首都圏では2つの空港(羽田・成田)と3つの航空基地(下総基地・厚木基地・入間基地)が半径50kmの中に所在している。また、九州には9つの空港(北九州・福岡・長崎・熊本・鹿児島・宮崎・大分・佐賀・福江)と3つの航空基地(築城・新田原・鹿屋)がある。
滑走路の長さや設備という基準で見ても、これらの自衛隊基地は、民間のジェット旅客機の離着陸が十分可能だ。しかし、そのポテンシャルはこれまで活かされてこなかった。
3.11の教訓を踏まえ、国交省は2016年から「緊急ダイバート運航総合支援システム」を運用している。これは、各空港の管理者が被害状況などを鑑みて受け入れ可能な航空機の数や大きさなどを入力すると、自動的に飛行計画から残燃料を算出、ダイバート先を推奨し、管制官やパイロット、航空会社間の調整をスムーズにする仕組みである。しかし、南海トラフ地震ではこのシステムも機能不全に陥る危険性がある。内閣府のシミュレーションによると、成田・羽田の同時閉鎖により最大100機以上のダイバートが想定されており、民間空港だけで対応できる確信はない。
災害時のみならず、有事においても、避難民の受け入れで民間空港が飽和する事態が予想されている。南西諸島有事に関する現行の計画では、与那国島や石垣島等から約11万2000人の住民を、福岡・鹿児島両空港(及び海路での鹿児島港)経由で九州各地に受け入れる想定だが、昨年の九州知事会議では、「避難住民の負担軽減の観点からも、国において各県に所在する空港及び港を使用可能とする想定に変更するなど柔軟な対応が必要」と提言されている。
先島諸島の各空港は滑走路が短く、気温も高いため離陸時の重量が制限される可能性がある(一般的に気温が高いほど離陸に要する滑走距離が長くなる)。要するに、より多くの住民の避難を優先すれば、燃料搭載量=航続距離が犠牲になる。鹿児島空港に近い海自の鹿屋基地、空自の新田原基地の利用は検討に値するであろう。
パイロットの不安――着陸方式の違い
しかし、自衛隊基地を緊急時の代替目的地に選定するにしても、「法制度」「運航安全」「情報保全」「オペレーション」という課題がある。