特集|経済・ビジネス

Vol. 2

ホルムズ海峡封鎖にも動じない「三菱商事」LNG事業の全貌

2026年7月21日


<span>ホルムズ海峡封鎖にも動じない「三菱商事」LNG事業の全貌</span>
LNGを運ぶタンカー(GreenOak / shutterstock.com)

「純利益1兆円超え」を他社と競い、「ホルムズ海峡封鎖」にも動じない三菱商事。そんな同社が世界中に抱えるLNG権益とはいかなるものなのか。現場の社員たちが「国家を背負う」という気概を持っているのはなぜなのか。今こそ知っておくべき三菱商事の全て。

1969年に日本で初めてLNG輸入に関与

 三菱商事のエネルギー&パワーソリューション部門は東京・丸の内の「丸の内パークビルディング」に入居している。今年2月の「アメリカとイスラエルによるイラン攻撃」と「ホルムズ海峡封鎖」に対する反応はどのようなものだったのか。

「社内がパニックになることはありませんでした」

 と、三菱商事のエネルギー部門に詳しい幹部社員。

「資源価格の高騰に伴い、弊社の主力であるLNG(液化天然ガス)の収益が上がることになりはしましたが、かといって『今が稼ぎ時だ!』といった雰囲気もなかった。オイルショックの経験を経た弊社としては、中東の地政学的リスクは織り込み済みでしたし、これまで50年間、そうしたリスクに備えるため、LNG事業のポートフォリオを世界各地に広げていたわけです」

 そもそもLNGとは、

「メタン(CH4)を主成分とする天然ガスをマイナス162℃以下に冷却し、液化したものです。液化することで体積は約600分の1に減少し、海上輸送が可能になるのです」

 三菱商事の中堅社員がそう解説する。

「三菱商事は1969年、LNG輸入代行事業者として関与し、日本で初めてLNGの輸入に携わりました。当時は、公害問題が深刻化していた時代。また、都市ガス需要が急成長していた。そこで、環境面に優れ、熱量が高いLNGが新たな燃料として注目されたのです」

 三菱商事が抱えているLNGの権益は、5大商社だけではなく、日本企業の中で最も大きい。

「三菱商事の持分生産量は約1500万トンと、日本のLNG需要のおよそ4分の1に相当します。調達先もブルネイ、マレーシア、オーストラリア、アメリカなど世界中に分散しています」(同)

 その上、ホルムズ海峡を通過しなければならない案件がないのも特徴だ。

「オマーンにLNGの権益が二つありますが、それはホルムズ海峡の外側です。例えば、台湾はLNGの約3割を中東から買っているので、今回のような件があるとエネルギー安全保障が脅かされます。が、当社をはじめとして日本はLNGポートフォリオや調達の分散化が進んでいたため、海峡封鎖があってもあまりバタバタしないのです」(同)

 総合商社の専門誌『週刊ブレーンズ』編集長の小淵良樹氏も、

「三菱商事のLNG事業は、現在は8カ国13案件に参画しています」

 と、解説する。

「1969年のアラスカLNGにおける輸入代行を出発点に、69年にはブルネイLNGで事業投資に初参画。その後、89年に豪州で、ガスの採掘(上流)から、パイプラインによる輸送、LNGへの加工までを行う『上流・LNG一体型事業』に踏み込み、権益保有を軸とする事業投資モデルを確立したのです。これにより、同社は長期契約に裏打ちされた安定収益基盤を構築しました」(同)

 その後も事業拡大の手を緩めることはなかった。

「2010年代以降は、インドネシアのドンギ・スノロLNGでオペレーター機能(開発・操業主体)に挑戦したほか、米キャメロンLNGへの参画を通じて自社販売型LNG事業に進出し、供給源もアジア・豪州中心から北米へ拡大しました」(同)

 さらに近年は、

「LNGカナダの稼働開始に加え、過去最大の買収総額約1・2兆円の米ヘインズビル・シェールガス事業に参画し、将来的にはキャメロンLNG基地などとの接続を視野に上流のガス開発から液化、販売までを一貫して手掛ける体制を強化しています」(同)

高まるエネルギー安全保障の重要性

 その中でも特に注目されるのが、25年に本格稼働したLNGカナダプロジェクトだという。

「同案件は09年に構想され、12年には上流のモントニー・シェールガス権益を取得。18年の最終投資決定を経て、構想から16年で初出荷に至りました。上流ガス田からパイプライン輸送、液化、販売までを一体で手掛ける北米初の統合型LNGプロジェクトであり、三菱商事が志向する『上流×販売』の事業モデルを体現する案件です」(同)

 それだけではない。この案件は同社の先見性を象徴しており、

「構想当時は、供給網の強靭化や地政学的リスクへの対応の重要性が社会全体で広く認識されていませんでしたが、三菱商事はカナダの豊富な天然ガス埋蔵量と政情の安定性、LNG拠点としての地理的優位性を先んじて見極め、事業化を進めました。ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢の緊迫化を受けてエネルギー安全保障の重要性が高まっている現在、その戦略的価値は一段と高まっています」

 と、小淵氏は言う。

「三菱商事は北米の豊富で競争力の高い天然ガス資源と、カナダの戦略的価値に早くから着目していました。カナダは豊富なガス資源と高い政治的安定性を有する上、カナダ西海岸から太平洋航路を利用してアジア市場に輸送できる。そのためホルムズ海峡やパナマ運河といった地政学上のチョークポイントを回避できます」

 三菱商事のエネルギー部門に詳しい幹部社員(前出)も胸を張る。

「LNGカナダの生産能力は年間約1400万トン。日本のLNG需要の20%強に相当する生産能力を持つプロジェクトで、三菱商事の持分は年間約200万トンに及びます。昨年供給を開始したことが寄与し、現時点での弊社LNG持分生産能力は年間約1500万トン。30年代前半までに年間1800万トンを目標としており、日本のエネルギー安全保障を根幹から支えることを目指しています」

 LNGカナダのプラント建設が始まったのは18年10月のこと。場所はカナダの西海岸、アラスカ湾に面したブリティッシュ・コロンビア州のキティマット港である。

おすすめの記事

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの動画

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

ニュースレターを購読する

新潮QUEは、「問う力」を養っていくためのサブスクリプションサービスです。

無料登録する