入試問題は「0時間目の授業」
中学受験の指導にあたり、かれこれ45年以上が過ぎました。毎年、受験シーズンが終わると、即座に行うのが各学校の入試分析です。これがとても楽しい。なかでも注目しているのが、渋谷教育学園幕張中学校の理科の問題です。入試問題には学力を測る目的がありますが、難関校においては、「0時間目の授業」という役割が大きいと感じています。2026年度に出題された同校の大問2の問題がまさにそうでした。
子ども達にも馴染みのあるラムネ菓子には、クエン酸と重曹(炭酸水素ナトリウム)が含まれています。この2つを題材に、発生する二酸化炭素の重さ・温度変化を読み取る問題が2026年度の入試では出題されました。子ども達は「重曹を熱すると二酸化炭素が発生する」という知識は塾で学習しますが、反応によって温度が下がるという吸熱反応までは習わない。つまり、小学生の子どもにとっては初めて見る問題が入試本番で出題されたわけです。
そんな問題、小学生の子どもが解けるわけがない、と思うかもしれません。しかし、これは意地悪問題ではありません。問題文を始めから終わりまできちんと読み、与えられたデータの意味を理解できれば、これまで培ってきた知識や経験をもとに答えが出せるようになっています。
実際、問題文には、重曹は水に溶けにくい性質のため、クエン酸を先に溶かしてから水溶液にするといった実験の順序と理由、重曹とクエン酸が反応する際には吸熱反応が起こるため、水溶液の温度が下がるといった情報をグラフで提示しています。
では、なぜそのような問題を出すのでしょうか。それは、学校が生徒の「素直さ」を見ているのではないか、と私は考えます。
昨今、首都圏では中学受験熱が高まり、幼少期から塾や学習系の習い事をはしごさせている家庭が増えています。こうした学習塾では常に成績が重視され、塾の学習も「これはテストに出るから覚えていくように」と、知識の暗記やパターン学習を導いてしまうことが多い。しかし、理系の力を伸ばすには、「なぜそうなるのか?」「だったら、どうなるのか?」といった思考を巡らせる時間が欠かせません。それを省いて、ただ知識を詰め込んでも、理系の力は育っていきません。学校側はそれを知っているからこそ、新たな知識に出会ったとき、「重曹とクエン酸が反応すると、温度が下がるんだな。面白いなあ」と反応してくれる素直な好奇心を持つ子を求めているのです。そういう子に自分たちの学校に来てほしい。そして、そんな子を教えていきたい。そんな学校側の思いが、この問題に込められているように感じました。これこそが、私が入試問題は「0時間目の授業」だと考える理由です。