教育

「不登校児童が復帰」「保護者からのクレームも激減」という教育アプローチ「SEL」――その実践方法と効果とは

2026年8月30日


<span>「不登校児童が復帰」「保護者からのクレームも激減」という教育アプローチ「SEL」――その実践方法と効果とは</span>

急速なAIの進化のなかで、学歴という単一の物差しで幸せになれるのかと不安を抱いている保護者は少なくない。いま、子どもに本当に必要な力とは何か。その答えの一つとして世界的に広がっているのが、「SEL(Social Emotional Learning)」という教育アプローチだ。SELとは何か、なぜ必要とされているのか、どんな効果が期待できるのか、そしてどう実践していけばよいのかを、学校や自治体と協働してSELに取り組む株式会社roku youの下向依梨さんに聞いた。(取材・佐藤智)

なぜ今、SELが必要とされているのか

 現在、日本の小中学校の不登校の子どもの数は、12年連続で過去最多を更新し、35万3970人にものぼる。さらに、全体の自殺者数が減少傾向にあるにもかかわらず、痛ましいことに小中高生の自殺者数は538人となり、統計開始以来最も多くなった。こうした子どもたちの状況について、株式会社rokuyouの下向さんはこう語る。

「コロナ禍を経験した子どもたちは人と関わり合う時間が大幅に減少し、関係性の中で自分の価値観や気持ちに目を向けていく機会が乏しくなっていきました。自身の心の不安や恐れ、痛みなどを感じ取ったり、他者に『助けて』と伝えたりする力を育む機会がなかった子どもが増えています。学校の先生にお話を聞いていると、これまで順調に学校生活を送ってきた子が、突然、学校に来られなくなるケースが増えたといいます」(下向さん、以下同)

 加えて、AIが急速に進化し、これまでの学力という単一の物差しだけでよいのかと、疑問に感じる大人も増えている。「AIが得意な領域ではなく、人にしかできないことを大切にすべきではないか」という思いを、多くのビジネスパーソンが抱いているのではないだろうか。

 こうした社会背景から現在注目されているのが、SEL(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング/Social Emotional Learning)だ。日本語では「社会性と情動の学び」と訳される。北米で生まれたSELは、1990年代のアメリカでの研究を皮切りに、2015年にはシカゴ市内の全校で導入され、シンガポールでは2010年から必修化、スタンフォード大学のオンラインハイスクールでも取り入れられるなど、世界的な広がりを見せている。

「ソーシャル(社会性)」は、人と良好な関係を築くための力、いわゆる社会スキル、「エモーショナル(情動)」は自分や他者の感情に気づき、適切に向き合う力を指す。これらの非認知能力を育んでいくのがSELの目的だ。

 SELでは具体的には次の5つの力を統合的に育むことを目指す。

  • 自己理解力……自分がどんなときにどんな感情や考えを持つのかに気づく力
     
  • 自己管理力……自分の気持ちとうまく付き合い、律していく力
     
  • 共感力……多様な他者の内面を想像し、尊重する力
     
  • 対人関係力(社会スキル)……相手の背景も含めて傾聴し、対話する力
     
  • 意思決定力……責任を持って選択し、その結果を的確に捉える力
    これらの力はそれぞれが独立したものではなく、相互に影響し合いながら高まり、変化の激しい環境の中で生じる心の課題を解決していく基盤となる。
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図 『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣::学力だけで幸せになれるのか?』(下向依梨著)より抜粋

SEL導入で見られた効果とは

 SELは目標を設定し、それに向けて駆動していくエネルギーとなり、「学びの土台づくり」となると下向さんは言う。例えば、「他者と協力しながら探究学習を進めていく」や「あの大学に絶対に合格したい」といったさまざまな目標に対して、SELは効果を発揮するという。

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