城山三郎の小説『男子の本懐』は軍部に抗いながら緊縮財政を敷き、「金解禁」を成し遂げた浜口雄幸首相と井上準之助蔵相を描いた傑作だ。作中、濱口首相はこんな台詞を妻子に吐く。
「すでに決死だから、途中、何事か起こって中道で斃れるようなことがあっても、もとより男子として本懐である」
宇波弘貴氏(61)が8月7日付で主計局長を退任し財務次官を拝命したときも、同じような覚悟を胸に秘めていたかもしれない。
「実際、宇波氏は一度、“死”を覚悟した瞬間があったと思いますよ」
とは政治部デスク。
「宇波氏は財務省の本流、主計畑を歩んでおり、次官就任は既定路線と見られていました。ところが夏の人事を目前にして、永田町や霞が関で“高市首相が消費減税に抵抗する宇波氏を疎ましく思っている。財務省人事に介入して次官に就任させないのでは”との“更迭説”が流れたのです」(同)
なぜ、宇波氏は“一命をとりとめて”予定通り次官に就任できたのか。その背景には、主計局次長だった一松旬氏が東京税関長に異動した人事がある。
「官邸が人事で財務省を揺さぶったのは、まちがいない。特に首相周辺は、一松氏の降格人事すら求めたといいます。彼は“消費税を下げても物価は下がらない”と持論を展開。官邸を激怒させたのです。しかし、片山さつき財務相はOGとして彼らの主張に理解を示し、なんとか守ろうとした。片山氏が掛け合い、最終的に一松氏の異動を飲む代わりに宇波氏の次官就任人事を死守しました」(同)
水面下で、官邸と片山氏の暗闘があったというのだ。