社会

ESGで美辞麗句を並べる「巨大食品会社」の嘘

2026年9月1日


<span>ESGで美辞麗句を並べる「巨大食品会社」の嘘</span>

あまりに綺麗事ばかりの美辞麗句が世にはびこれば、まともな大人なら疑いの目を向けたくもなるだろう。持続可能な社会を目指し消費者に安心安全を謳う巨大食品会社。彼らは日々の食卓に欠かせない製品を数多く扱うが、その実態はスローガン通りと言えるのか。

「消費者の安全」を標榜しながら…

 スーパーなどで食品を購入する際、あなたが心掛けていることはなんだろうか。

 物価高の昨今なら、安価なことが最優先という方も多かろうが、初物の秋刀魚が1匹500円でも、旬の味覚は譲れないなんてリッチな方もいるかもしれない。できるだけ「国産」にこだわり「中国産」と明記されたモノには手を出さない。食品表示を徹底的に見比べて無添加に近い食品を選ぶ。そんな“こだわり派”もいるのではないか。

 もっとも程度の差こそあれ、自分や家族が口にする食品が安心安全であることを望まない人はいないだろう。そうした消費者心理をくすぐるかの如く、巨大食品会社が軒並み掲げる経営理念が「ESG」である。

 三つの頭文字を合わせたもので、「E(Environment)」は「環境」、「S(Social)」は「社会」、「G(Governance)」は「企業統治」を意味する。

 端的に言えば、持続可能な社会の実現を志す企業として、消費者に“安心安全な食品を提供する”などと謳っているのだ。

 実際、売上高(連結)1兆円超で国内パン業界の中では圧倒的な首位に立つ山崎製パンは、独自の『ESGレポート』を発行している。ハムやソーセージなどの食肉加工業界で首位の日本ハム、2位の伊藤ハム米久HDも、共に売上高(連結)1兆円超を誇る企業として、サステナビリティへの取り組みをウェブ上で公開している。即席麺・インスタント食品の最大手・日清食品HDも、公式サイトでESGへの取り組みをアピールするのだ。

 ここに挙げた食品企業のみならず、大企業の大半が「ESG」の大合唱なのだが、その流れは日本独自のものではない。2000年代以降、欧米企業が「人権」や「環境」への取り組みを示す指標として導入し始めたものなのだ。しかし、日本の食品業界の実態を見ると、違和感を禁じ得ないのである。

 米ハーバード大などで食事や生活習慣と疾患の関係について研究を重ねてきた内科医で、医学博士の大西睦子氏が言う。

「もはや米国では、一部の高所得者層のみならず、一般消費者にも加工食品を避けるなどの健康志向の流れが強くなっています。それを受けて食品業界も徐々に健康的な食品を販売しています。日本でも健康志向は高まっていますが、帰国するたびに驚かされるのは、スーパーやコンビニに行くと、菓子パンやカップ麺など手軽に食べられる加工食品が、あまりに多く販売されていることです」

 忙しい日本人は、健康と引き換えに、目先の便利さを求めてしまう傾向にあるとして、大西氏が続ける。

「日本の食品メーカーが、ESGや健康への貢献を掲げるのであれば、環境対策だけでなく、実際にどのような食品を消費者に提供しているのかも重要です。手軽に口にできる加工度の高い食品を販売しながら、『健康への貢献』を強調するのなら、その整合性は検証されるべきでしょう。日本にいる私の患者さんに話を聞くと、“朝食はプロテインだけ”という人もいます。便利さを求めるあまり、食事そのものが加工食品に置き換わっているように感じることさえあります」

 ESGの本場である米国では、理念に反する加工食品への規制が強化されつつある。その代表例が、未だ日本では食品添加物として使われることが多い「合成着色料」への対応だ。

 一般社団法人ナチュラル&ミネラル食品アドバイザー協会代表理事で、加工食品ジャーナリストの中戸川貢氏によれば、

「食品ラベルの原材料表示を見ると、『赤色102号』などと記載されているのを見ることがあると思いますが、米国では昨年4月から保健福祉省とFDA(米国食品医薬品局)が、石油由来の合成着色料を、食品から段階的に減らしていく方針を発表しました。既に禁止が決定していた『赤色3号』だけにとどまらず、『赤色40号』『黄色5号』『黄色6号』『青色1号』など計8種類が対象となっており、食品メーカーに天然由来の着色料などへの切り替えを促しています」

亜硝酸ナトリウムで「見栄えを良く」

 片や日本では規制が進んでいないのが実情なのだ。

「象徴的だったのが、昨年行われた大阪・関西万博でしょう。公式キャラクターの『ミャクミャク』は、赤と青の配色が特徴的でしたが、関連商品として発売された菓子などには『赤色102号』や『青色1号』などの合成着色料が使われていました。口にしたら舌に色がつきそうなほどカラフルな商品が、お土産としてたくさん売られていた。それくらい日本では合成着色料への抵抗感が薄いのです」(同)

 海外では合成着色料における発がん性だけでなく、子供たちへの安全性が議論されているとして、中戸川氏はこう続ける。

「すでにEUでは『赤色40号』『黄色4号』『黄色5号』など6種類の合成着色料を含む食品について、子供の注意力などに悪影響を及ぼす可能性があるとの趣旨の警告表示を義務付けています。代表的な根拠は、07年に英サウスサンプトン大学の研究チームが医学誌『The Lancet』に発表した論文です。3歳児と8~9歳児を対象とした二重盲検試験で、合成着色料と保存料の混合物を摂取させたところ、過活動や不注意などを総合した指標が悪化してしまったのです」

 危険な食品添加物は他にもある。その一つが、色鮮やかなピンク色で販売されるハムやベーコンの他、ウインナーなどの加工肉にも使われている「発色剤」である。

 厚労省食品添加物公定書作成検討会委員や消費者庁食品表示一元化検討会委員を歴任した、薬学博士の中村幹雄氏によれば、

「加工肉に使われる代表的な発色剤は『亜硝酸ナトリウム』です。食品中のアミンと反応するとニトロソアミン類を生成する可能性がありますが、この物質は12年に国際がん研究センターが人に対して発がん性があることを示唆する『グループ1』に分類しています。亜硝酸ナトリウムは加熱によっても反応して、ニトロソアミンが増える可能性がある。ベーコンやウインナーなどを電子レンジで温めることがあると思いますが、できれば避けた方がいいでしょう」

 この発色剤は一向に日本で規制が進んでいないと話すのは、一般社団法人加工食品診断士協会の代表理事である安部司氏だ。

おすすめの記事

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

注目の特集

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの電子書籍

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの動画

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

ニュースレターを購読する

新潮QUEは、「問う力」を養っていくためのサブスクリプションサービスです。

無料登録する