YouTube時代の福澤諭吉
YouTubeというメディアの時代に
書店でサイン会を開催すると、「YouTubeで三宅さんを知りました!」という人が多くを占めるようになった。
文芸評論家、31歳。これまではSNSや書店で知りました、と言われることがほとんどだった。2017年にデビューして以来、自分のことを読者に知ってもらうきっかけは、X(昔はTwitterと呼ばれていた)での投稿がバズったり、書籍を書店や図書室で手にとってもらったり、といった出来事が多くを占めていた。読者が出会う場所は、SNSか書店か図書館だった。
だがここ2年くらいで、様相が変わった。そのきっかけの多くが、YouTubeになったのである。
サイン会を開催すると、同席した編集者がだいたい驚く。私はサイン会でよく「どこで知ってくれたんですか?」と読者の方に尋ねるのだが、その答えが、動画である、という人が本当に増えたからだ。動画で喋る姿で知って、書籍を買いました、と。そして書店で開催されるサイン会まで辿り着いてくれるのだから、ありがたいことこの上ない。しかし編集者からすると「書籍きっかけじゃなく動画きっかけの人がこんなに多いのか」と衝撃を受ける、とよく言われる。
動画の存在感について書籍の書き手として嘆く人も多いだろうが、それどころか、最近は「書籍の情報を動画で探す」人すら増えているのである。書籍の著者が、動画でインタビューを受けることが増えた。そこで著者の思想や専門分野を知り、面白そうだと思ったら、書籍で深く知ろうとする。そういう流れが増えてきている。
動画と著作。それはけっして相反するものではない。むしろ今は、動画でも著作でも、どちらでも自分の専門分野を発信しなければいけない時代がやってきている。メディアが変わったのだ。雑誌や新聞の代わりに、動画の存在感が増している。それは政治やジャーナリズムの世界でも、知識人と呼ばれる人々の世界でも、なにかを発信している限り同様だろう。
――そんな時代が来たんだなあ、本格的にYouTubeというメディアが力を持ってきたんだなあ、と思っていたある日。
私は、福澤諭吉に興味を持った。
なぜなら、福澤諭吉こそ、YouTube時代の批評家のロールモデルのひとりであるように思えるからだ。