経済・ビジネス

中小企業の9割が「サイバー保険」に未加入、最大のリスクは大企業に「取引から外されること」

2026年9月8日


<span>中小企業の9割が「サイバー保険」に未加入、最大のリスクは大企業に「取引から外されること」</span>
サイバー攻撃のリスクを過小評価する会社は、サプライチェーン全体を危険に晒す(C)Blue Titan / shutterstock.com

世界のサイバー保険市場は、2030年には約280億ドルまで伸びると見込まれている。しかし、日本の中小企業の場合、8.8%しかサイバー保険に加入していない。未加入企業の約3割が、その理由を「リスクが発生する可能性は低い」と答えたが、セキュリティ事故による業務被害の発生経路は「国内の委託先・取引先」が最も多いとされる。サイバー保険は、サプライチェーン全体の安全性を高める上でも不可欠な仕組みであり、未加入を理由に「取引を断られるリスク」を減らすことができる。

無保険の車が隣を走っていたら平気でいられるか

 車の運転手は「自分は事故を起こさない」と信じている。だが、安全運転に自信があり、車の整備をしていても、事故は本人の確信とは関係なく起きる。その時、損害を受けるのは運転手だけではない。衝突した相手がいるし、道路を塞がれ、先へ進めなくなる人もいる。

 いま、日本のデジタル社会で、同じことが起きている。

 トレンドマイクロの集計では、2025年に国内で公表されたセキュリティインシデントは559件。1日平均1.5件で、しかも公表された事案だけだ(※1)。

 それでも、日本の中小企業でサイバー保険に加入しているのは1割未満。裏を返せば、9割を超える企業が、サイバー攻撃被害(サイバー事故)に対する保険を持たないまま、サプライチェーンという同じ産業道路を走っている(※2)。

 「自分の会社は狙われない」「セキュリティ対策はしている」「事故が起きてから考えればよい」。そう考える経営者もいるだろう。しかし、サイバー攻撃を受けるのは一社でも、影響は一社で終わらない。受発注、物流、決済、顧客対応。停止は取引網の先へ広がっていく。

 無保険の車の運転手も、事故を起こすつもりで走ってはいない。サイバー保険は、被害企業を救うだけの金融商品ではなく、連鎖事故を食い止めるデジタル社会の自動車保険である。

大企業では約6割が加入済み

 日本損害保険協会の2025年調査によれば、中小企業のサイバー保険加入率は8.8%だった。2021年の4.1%から倍増したとはいえ、なお9割以上が無保険である。同じ調査で、火災保険の加入率は58.6%。差は約50ポイントに及ぶ(※2)。

 火災には備えるが、サイバー事故への備えは後回しにする。この差は、リスクの「見え方」の差でもある。火は煙が見え、焼け跡が残る。サイバー事故は、建物も設備も残したまま、会社の機能だけを止める。見えにくいから、経営者は発生確率も被害も過小評価しやすい。

 だが、冒頭で述べたように、サイバー事故の被害の広がり方は火災より自動車事故に近い。巻き込まれる取引先や顧客の存在を考えれば、無保険という判断の代償を払うのはその企業だけでは済まない。

 もう一つ、国内には大きな断層がある。KPMGジャパンが2024年に実施した大企業中心の別調査では、回答企業の57.9%がサイバー保険に加入していた(※3)。調査対象が異なるため単純比較はできない。それでも、大企業と中小企業の間にある「無保険格差」は無視できない。

 海外ではサイバー保険市場が拡大してきた。ミュンヘン再保険は、世界のサイバー保険料が2025年の約150億ドルから、2030年には約280億ドルまで伸びると見込む(※4)。だが、日本でより深刻なのは海外との差ではない。同じサプライチェーンに、十分な事故対応体制を持つ企業と、ほぼ無保険の企業が混在していることだ。

奥野氏の著書『2025-2035 サイバー空間の地政学』(日本実業出版社)では、侵入されることを前提に、社会がどう止まらずに動き続けるのかを問う。

復旧のための「時間を買う」という発想

 ここからは、無保険の企業が負うリスクを、具体的に見ていこう。

 第一に、復旧という「時間との戦い」で出遅れる。

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