超加工食品とがん発症リスクの「ショッキングな関係」
食品添加物を長期間摂取し続けたら人間の健康に一体どのような影響があるのか、本当に安全で悪影響はないのか、基準量以下の摂取であれば害は及ばないと言い切れるのか――。こうした一連の疑問に対する答えは、端的に言えば「よくわからない」でした、これまでであれば。
しかし今年に入って、この問いを考える際に大いに参考になる論文が発表されました。添加物の中でも、保存料とがんの関連性に焦点を当てた論文です。そしてその論文によって、複数の保存料で、摂取量が多い人はがんの発症率が高いという関連が示されたのです。
〈こう語る大西睦子氏は、米ハーバード大などで食や生活習慣と疾患の関係について長年研究を重ねてきた、「食事と健康」に関するエキスパートである。〉
添加物には国や地域によって設けられた安全基準がありますが、その基準の多くは動物や細胞の実験データを基礎としたものです。「生身の人間」が日常生活で長期間摂取した場合、どの程度がんの発症リスクを高めるかについては十分なデータがありませんでした。
そこで、フランスの研究チームは10万人以上の食生活を詳しく調べ、保存料ごとの摂取量とがん発症の関係性を追跡調査しました。その結果をまとめた論文が、今年1月、世界4大医学誌のひとつであるBMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)に掲載されたのです。
研究の結果、調査対象の17種類の保存料のうち、6種類でがんとの関連が認められ、摂取量の多い群でがんの発症率が統計的に有意に高くなっていたことが判明しました。
この研究には、フランスで2009年から続いている大規模なNutriNet-Santeという前向きコホート研究(疫学調査)のデータが使用されています。過去にもこのデータが使われ大きな注目を集めた研究があります。今回の論文とも大いに関連があり、同じくBMJに18年に掲載された論文です。
その論文では、超加工食品の摂取量とがんの発症の関係を調べたところ、食事全体に占める超加工食品の割合が10%増えるごとに、全がんの発症リスクが12%、乳がんが11%高くなるというショッキングな結果が発表されたのです。
〈大西氏が言及する超加工食品とは、09年にブラジル・サンパウロ大学の教授らが提唱した概念に基づく、NOVA分類という食品分類のことである。菓子パン、即席麺や冷凍ピザなど、家庭料理の材料としては一般的ではない、添加物などを使用した加工度が高い食品を指す。
超加工食品は近年多くの研究で取り上げられ、がん、心血管疾患、高血圧、糖尿病など、様々な病気のリスク上昇との関連が明らかになっている。
本誌でもこれまで、超加工食品に特徴的な添加物などが多く使用された、スーパー等で買える身近で具体的な商品名を紹介してきた。〉
18年当時は、超加工食品を多く摂取する人でがんの発症率が高いことは分かっていても、「なぜ超加工食品を多く食べる人にがんが多いのか」までは明らかになっていませんでした。論文の著者らも、原因は添加物なのか、あるいは超加工食品の栄養組成なのか、はたまた加工過程で生じる物質が関係しているのか、さらに詳しく調べる必要があると指摘していました。
それから約8年。今回BMJに掲載された論文では、同じコホートのより長期のデータを用い、今度は食品に含まれる「保存料」に焦点を当てて詳しく解析しています。つまり、18年時点では「超加工食品」という大きな枠組みで健康に与える影響が示されたにとどまっていたものを、今回はさらに一歩踏み込み、「その中に含まれる個々の添加物、特に保存料はどうなのか」を調べたのです。
「安全基準内」でもがん発症率が上昇
その結果、以下の6種類の保存料に関して、摂取量が多い群でがんの発症率が有意に高いという関連が認められました。