カルチャー

【特別対談】大﨑洋×広井王子 若い子のための“居場所作り”としての「雨ニモマケズ高等学校」

2026年9月16日


<span>【特別対談】大﨑洋×広井王子 若い子のための“居場所作り”としての「雨ニモマケズ高等学校」</span>
大﨑洋氏と広井王子氏

吉本興業元会長の大﨑洋氏(73)が、新設される通信制高校の校長に就任する。従来にない自由な教育方針を取り入れ、若い子のための“居場所作り”を目指すという。副校長として迎えるマルチクリエイターの広井王子(おうじ)氏(72)と抱負を語り合ってもらった。

「教員免許も持っていないし…」

〈大﨑氏は、2023年に吉本興業ホールディングス会長を退任して以降、新たに会社や一般社団法人を設立し、様々な事業に取り組んできた。大阪・関西万博の「催事検討会議共同座長」として成功の一翼も担う。その大﨑氏が、今度は27年4月に開校される通信制の「雨ニモマケズ高等学校」の校長に就任する。しかもかつてない新しい形態の高校であるという。まずは校長を引き受けた経緯から。〉

大﨑 今から半年前に広島銀行さんに講演を頼まれた際に、地元で学校経営をされている学校法人の理事長と名刺交換をしまして、「来年の春に、全国や世界中から生徒を募集できる通信制の高校を開校するんですが、校長先生になってもらえないか」というお話をいただいたんです。最初は「いやいや、僕は教員免許も持ってないし、君が思っているよりアホやから無理、無理」と笑いながら言ってたんです。ところが聞いてみると「校長先生は教員免許がなくてもいい」そうで、「通信制だけど全国各地に子供たちが集まれる学習センターみたいなもんをいっぱい作ります」と。「それは例えば山の学校とか海の学校とか、シャッター通りになった商店街の中とかにも学校を作るってこと?」と聞いたら、まさしくそうだという。それならちょっとおもろいな、やってみるかというのが始まりでした。

 僕も46年間漫才師のマネージャーをやってきて、いきなり校長さんというのは分不相応とは思っていたんですけど、考えればこれまでいろんな若者に付き添って、24時間ああでもないこうでもないって一緒になって笑ったり悩んだりしてきました。そういう意味で言ったら、校長さんになって若い子たちと一緒に過ごすみたいなことならば、残りの人生で、これまでのキャリアを活かしてお役に立てるのかなと思いました。ただ、ちょっと荷が重すぎる気もしたんで、副校長として一緒にできる人がいてたらいいなと思って何人か招聘することにしたんです。

〈それも異色の経歴の持ち主を選んだというが、真っ先に声を掛けたのが旧知の間柄の広井王子氏であった。広井氏は、数々の漫画、アニメ、テレビゲームなどの原作を手掛けるマルチクリエイターで、爆発的ヒットとなったゲーム「サクラ大戦」シリーズで知られている。広井氏もまたユニークな人生を歩んできた。〉

高校生はAIで「学べる」のか|大﨑洋×広井王子

高校時代は映画を年間120本観て過ごした

大﨑 僕としては一応三顧の礼をもってお声掛けしたら、0・5秒で「やろやろ、いいよ」って返事をいただきました。

広井 そうでしたね。僕が育ったのは東京・向島の元赤線地帯で、うちはダンスホールをやっていました。叔母が戦後SKD(松竹歌劇団)の1期生で国際劇場(浅草)の舞台に立ってまして、僕は顔パスで劇場に入れたんです。それで僕はどの道、勤め人にはならないだろうなと思っていて、父親は「お前が生きていく分ぐらいは多分大丈夫だ」と言ってくれたので、このまま舞台を観て、本読んで、映画観て暮らしていけるって思っていました。高校時代は映画を年間120本観てました。

 そんなふうに生きてきて、今もずっとそうやってほぼほぼ生きておりますが、僕はモノ作りの中でクリエイティブはやっているけども、作家さんみたいに自分の中から湧き上がってくるようなものは1個もないんです。誰かについていくと面白い出会いがあって、「これ作れよ」と言われて、そうすると好きになっていくだけの話です。

 それでいつもどうやったらスポンサーやプロデューサーが喜ぶかと考えていました。ほとんど無理難題を言われるわけだけど、そのほうが面白かった。今度の高校の話も僕にとっては無理難題なんですよ。まったく未知の世界ですから。

大﨑 そうですね。王子が言ったように、プロデューサーからお題っていう枷(かせ)をもらって、そこで自由にのびのびとやるということね。僕も吉本時代、ダウンタウンの松本人志君や浜田雅功君、東野幸治君、今田耕司君、ほんこん、板尾創路君が吉本に入って来た時に、彼らが自由にのびのびと自主的にできる場をどう提供するかというのが仕事だと思っていました。

 それも勝手気ままな自由じゃなくて、心斎橋筋2丁目劇場という新しいスペースの中で、大道具さん、照明さん、進行係も含めて自分らでお笑いを発表できる場を作っていきました。新しく作る「雨ニモマケズ高校」も、王子と一緒に、そういう若い子のための“居場所作り”みたいなことになればいいかなと思ってます。

〈こうしたユニークな経歴の二人が目指す新しい形の教育とはどういうものか。〉

大﨑 高校生がいろんな大人にめぐり会えたらいいなと思うんですよ。普通の高校に行くと、3年間ほぼほぼ先生方と、クラスや学年の友達に会うぐらいしかないじゃないですか。大人は先生しか知らないというのでは、ちょっともったいないと思ってまして。

 偏差値という唯一の物差しで、勝った負けたでいい大学に行って、いい会社に就職して幸せな人生を送る︱。それは、戦後、日本が良くなったということなんでしょうけど、どう考えても、数字とか評価とか「いいね」の数で競い合うみたいなことは、もうそろそろいいんじゃないかと思ってます。

 そういう意味では、王子は一生定職に就かないで、好きなものを見つけたり出会ったり、あてがわれたりして、うまくやりくりして楽しく人生を送ってきた。大金持ちにはならないけれども、「こんな生き方もあるんだよ」という副校長さんがいてれば、子供たちにすごくいい刺激になるんじゃないかなと思うんですよね。教室に閉じ込められて、机に座って、いじめが横行するみたいな世界から、とりあえず若い子を解放してあげたいと思ってます。

“アナログ大事だよおじさん”と子供たちが接する意味

広井 昔の話ですが、うちの子が本を持ってきて「これとこれ、文字が違う」と言うわけです。そらそうですよ、出版社によって本に使う活字は違いますから。そういうところに気が付く子でした。だから、いろんな書体があるのを見せて、「これ活版だから、かすれてるでしょ」「ちょっと字が曲がったりしてるけど面白いよね」とか教えてたら、子供は編集者になりました。

 そういうふうに、一生、好きでいられるものを見つけてほしい。僕が教えたいのはそういうことなんですね。

 ピンポイントでずっと好きでいられるものを見つけたら、それは実に幸せなことです。みんな価値観が違うので、学校で教えるべきは「自分の中の幸せって何?」という、それを早く見つけてあげることだと思うんです。

 今までは資本主義の中にいたので、全員が「起立、礼、着席」と従う子が会社にとって一番よかった。学校はそういう子を一生懸命量産してきたんですね。僕は、それに対して「絶対ノー」と言いたい。まず学校に入って「起立、礼、着席」、ここに疑問を持てと。これ、戦前の軍事教育と全然変わっていないんです。

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