梅原龍三郎、志村ふくみなどの作品を所蔵
信三のその胸中に想いを巡らせざるを得ない状況が芽生えた背景には、今年7月、静岡県掛川市にある資生堂アートハウスが閉館したという出来事がある。同館が開館した1978年は信三の没後30年にあたり、彼とアートハウスの間に直接の接点はない。しかし、同館を信三が遺し、代々継承されてきた企業理念の「結晶」と捉えるならば、その閉館は資生堂という企業の大きな揺らぎを感じさせる事象と言える。
資生堂アートハウスは、同社が所有する梅原龍三郎、中川一政、奥村土牛らの近現代美術をはじめ、清水卯一、八木一夫、志村ふくみといった作家の工芸品や着物、さらに創業以来の膨大な資料を収蔵・展示する美術館として開館した。谷口吉生と高宮眞介が設計を手掛けた名建築としても知られる。
筆者も過去に二度ほど訪れたことがある。東海道新幹線の掛川駅を降り、線路沿いに20分ほど歩くと、曲面を巧みに取り入れた近未来的な建物が見えてくる。ゆったりとした敷地にたたずむその姿は、資生堂が誇る「美」の一端を静かに象徴していた。
美術館などの文化施設が閉鎖される際、惜しむ声が湧き上がるのは世の常である。では、この閉館によって資生堂、ひいては社会にとって何が失われるのだろうか。まずは、信三が築いた資生堂の本質と、今回の閉館がどのように結びついているのかを探ってみよう。
業績不振の陰で問われる「美」の価値
ここ数年、資生堂の業績が芳しくない。