【鄭麗文(チェン・リーウェン)プロフィール】
中国国民党主席(2025年11月1日~)。1969年、台湾雲林県生まれ。父親は雲南省普洱市出身で、少数民族のイ族。母親は台湾雲林県出身。台湾大学法律学科卒業、米テンプル大学法学修士、英ケンブリッジ大学国際関係修士・博士候補。国民大会代表(国会議員の一種、当時は民進党所属)、国民党中央委員会文化伝播委員会主任委員、国民党スポークスパーソン、行政院報道官(国民党・馬英九政権時代)、立法委員(国会議員に相当)、国民党副秘書長などを経験。メディアの政治討論番組司会者を多数務める。所属政党は1990~2002年、民進党。2005年~現在、国民党。
民進党の「反中」カードは効力を失い始めている
Q:鄭麗文主席は、2026年4月7~12日に中国大陸(注1)を訪問し、その間の4月10日には中国共産党の習近平総書記と会見した。日本では、中国に対抗している現与党民主進歩党(民進党)への親近感が強く、頼清徳政権(2024年~)を“親日”とみなす一方、鄭主席の言動に懐疑的で、国民党を“大陸寄り”さらには“反日”だと考える人も少なくない。そうした状況をどう思うか。
(注1)「一つの中国」で指す広義の「中国」との混同を避けるため、ここでは「台湾」「中国大陸(または大陸)」という、双方がいずれも使用している地理的名称を使用する。また、双方を「両岸」「台湾海峡両岸」などと表現する。
A:国民党が2016年に野党に転落して、すでに10年だ。この間は、世界的に反中ムードが高まった時期と重なる。こうした雰囲気の中で、与党・民進党はメディアをほぼ独占し、国民党を中国共産党の仲間であるかのような悪者に仕立て上げた。これは、社会的・国際的な雰囲気と、民進党の政治的操作が結びついた結果だ。
しかし、すでに変化が現れ始めている。まず、中国大陸は多くの分野で発展を見せた。また、民進党は「反中」カードを過剰に使った。さらに、ロシア・ウクライナ戦争によって、台湾の世論は台湾海峡両岸での戦争の懸念を高めた。こうした要因が重なり、民進党の「反中」カードは効力を失い始めている。昨年、民進党が発動した大規模なリコール運動(「大罷免」)(注2)が全面失敗したのも、台湾の有権者が民進党に強い反感と嫌悪を抱いた結果だ。
(注2)「大罷免」とは、2025年に民進党が立法院(国会)での主導権を取り戻すために発動した、国民党所属の立法委員(国会議員)に対する大規模な罷免運動。31人についてリコール投票が行われ、すべて否決された。
しかし、国際社会に積み重なった国民党に対する誤解を解消するには、大きな努力が必要だ。私たちが目指すのは、平和で安定した両岸関係だ。台湾が「最も危険な導火線」になることなく、むしろ平和に対して積極的な役割を果たすことだ。
それは、多くの人が考えているような、台湾側の一方的な妥協ではなく、台湾の民主主義、自由、繁栄を犠牲にすることでもない。むしろ、それらを守ることになる。中国共産党も、安定的で健全な両岸関係を築くことは、台湾側に全面的な譲歩や妥協を求めることではないと十分に理解している。それは、相互尊重と相互理解の上に成り立つものだ。
国民党に対する誤解は、日本だけのものではなく、欧米社会にも広く存在する。私は主席に就任して以来、国際社会とのコミュニケーションに努めてきた。国民党の本当の姿、両岸平和の本当の意味を知ってもらい、台湾海峡での軍事衝突に対して皆さんが抱いている強い不安を和らげ、国際社会に向けて新たな選択肢、実行可能な解決策を提示したい。
本気で中国と戦争したい国などどこにもない
Q:日本と台湾の関係は、かつて主に国民党が担ってきた。現在、国民党と日本との関係はどのような状況か。
A:国民党は対日関係を非常に重視してきた。しかし、野党になってから関係はかなり弱まった。人も資金も不足している。対日関係だけでなく、対米関係を含めた国際関係全般に十分に取り組むことができていない。中国大陸との対話も10年間中断していた。今回、私は北京を訪問して習近平氏と会談し、中国共産党との交流プラットフォームを再び立ち上げた。あらゆる関係がゼロからの再スタートだ。
この10年で国際環境は激しく変化している。今回の私の北京訪問に国際社会から注目が集まったのは、国民党が2026年(統一地方選挙)、そして2028年(総統選挙、立法委員選挙)に勝利し、政権に復帰する可能性が十分にあるからだ。国民党と民進党では、両岸関係に対する考え方が大きく異なる。それは台湾だけでなく、地域全体、国際環境全体にも影響を及ぼす。だから、現在の国民党が何を考え、どのような政策を進めようとしているのかを、皆さんに理解してもらいたい。
Q:反中感情が強い状況では、国民党の考え方を理解してもらうのは難しい。理解を広めるために、今後どのように取り組むのか。
A:時間が必要だ。民進党は多くの学者、メディア、政府機関を使って、誤った論述を繰り返してきた。文化、メディア、学術、歴史などあらゆる分野で、「台湾」と「中国」を強く区別する考え方を広めた。時間をかけてそうした認識が人々に根付き、海外の多くの両岸専門家も、そうした論調に慣れてしまった。
また、民進党は台湾の若い世代にも影響を与えた。例えば、教育課程を変更し、「脱中国化」を進めた。私たちは、こうした問題に正面から向き合い、変えていかなければならない。
Q:国民党はそうした状況を変えることができると思うか。
A:できる。例えば、ドナルド・トランプ米大統領が政策を調整し、習近平氏と会談(2026年5月14~15日)したのが好例だ。
改革開放から40年以上経ったが、西側諸国は当初、中国大陸の体制が様々な変化を経てなお存続できるとは考えていなかった。多くの人が中国大陸の崩壊を期待した。だが、そのようなことは一度も起きていない。政治体制はむしろ強化され、AI(人工知能)やドローン、宇宙開発など多くの分野で世界先端への発展を遂げた。
世界全体がこの問題について真剣に考え始めている。中国と正面から衝突すれば双方が傷つく。では、中国大陸との平和的な共存を実現するためには、どのような方法があるのか。違うやり方を選ぶとすれば、それは何なのか。
だからこそ、国民党は率先して第一歩を踏み出したのだ。今回、私が北京に行って習近平総書記と会談した歴史的意義はそこにある。国民党は、「92年コンセンサス(九二共識)」(注3)によって台湾海峡両岸の緊張を直ちに緩和し、平和的な対話を行うことができる、と主張している。感情に流されたポピュリズム的な対応は危険だ。例えば、民進党のように、選挙での勝利のため反中感情を利用すれば、台湾を危険な状況に追い込んでしまう。これは、他の国にも同じことが言えるだろう。
(注3)「92年コンセンサス」(九二共識)は、国民党の李登輝時代の1992年、台湾と中国大陸の窓口団体が香港で会談を行った際、双方が口頭で「一つの中国」を認めたというもの。国民党はこれを「一つの中国、各自解釈(一中各表)」と説明。中国大陸側は国民党の説明を認めていないが、黙認する形で「92年コンセンサス」を双方の交流の基礎と位置付けた。これに対し民進党は、「92年コンセンサス」を認めず、このため台湾と中国大陸側との交流が断絶している。
どうすれば中国と平和な関係を築きながら交流・共存し、同時に経済発展や安全保障など自国の国益を損なわずにすむのか。本気で中国大陸と戦争をしたい国など、どこにもないだろう。ここにおいて、両岸関係は非常に重要だ。世界中が台湾海峡での衝突を恐れている。ここで戦争が起きれば、その影響はロシア・ウクライナ戦争、イランのホルムズ海峡問題と比べものにならないほど深刻なものになる。
私は北京訪問に続いてアメリカを訪問(2026年6月1~16日)した。ここで最も重要なのは、アメリカの態度だからだ。
アメリカはTSMCを台湾から移転させようしている
Q:民進党のある重鎮が、「台湾の未来は台湾自身が決められない。台湾の未来を決めるのは中国大陸とアメリカだ」と語った。この見方についてどう考えるか。