国際 + Foresight

かつて「台湾独立」原理主義者だった女性政治家が「一つの中国」を支持する野党に“転向”した理由【鄭麗文・国民党主席インタビュー】

2026年10月10日


<span>かつて「台湾独立」原理主義者だった女性政治家が「一つの中国」を支持する野党に“転向”した理由【鄭麗文・国民党主席インタビュー】</span>
台湾独立派から国民党に転身した鄭氏のTシャツの胸には「反独台」ならぬ「反“毒”台」の文字(国民党提供)

台湾の最大野党・国民党の鄭麗文主席(56)は、異色の経歴の持ち主だ。かつては野党時代の民進党に所属し台湾独立の闘士だった彼女が、今では国民党のトップに立ち独立に反対している。鄭氏本人が語った民進党離党の理由、そして国民党と共産党が「一つの中国」について口頭で合意したとされる「92年コンセンサス」の意味とは。そして彼女は果たして何者なのか。日本の報道が少ない鄭氏の実像を知ることはいまの台湾情勢の解像度を高めることにもつながる。台湾在住ジャーナリストからの質問に鄭氏は何と答えたか。

【鄭麗文(チェン・リーウェン)プロフィール】

中国国民党主席(2025年11月1日~)。1969年、台湾雲林県生まれ。父親は雲南省普洱市出身で、少数民族のイ族。母親は台湾雲林県出身。台湾大学法律学科卒業、米テンプル大学法学修士、英ケンブリッジ大学国際関係修士・博士候補。国民大会代表(国会議員の一種、当時は民進党所属)、国民党中央委員会文化伝播委員会主任委員、国民党スポークスパーソン、行政院報道官(国民党・馬英九政権時代)、立法委員(国会議員に相当)、国民党副秘書長などを経験。メディアの政治討論番組司会者を多数務める。所属政党は1990~2002年、民進党。2005年~現在、国民党。

支持者に手を振る鄭氏(国民党提供)

仕事がなくなればイデオロギーでは生きていけない

Q:今年(2026年)、台湾のGDP(域内総生産)成長率は10%を超える見通しだ。しかし、ハイテク産業が非常に好調な一方で、消費が低迷し貧富の格差が拡大している。

A:TSMCをはじめとするハイテク産業は多くの利益を上げている。しかし、その経済的成果を享受できるのは一部の人たちにすぎない。従来型製造業、サービス業、農業は非常に厳しい状況にあるが、こうした産業は就業人口の8割を占めている。それが深刻に縮小しているため、賃金水準が低くなっている。

 その重大な原因は、中国大陸との関係を断ち切り、中国大陸の市場を失ってしまったことだ。ハイテク産業が好調で、株式市場も好調なため、この問題は覆い隠されてきた。しかし、おそらく早い段階でその痛みが実感され、表面化するだろう。

 民進党の蔡英文氏(総統在任2016~2024年)は、2期目を目指した総統選挙(2020年)で再選の危機に直面した。しかし、香港で大規模デモが起き(2019~2020年)、世界的な反中ムードが高まったことが蔡英文氏を救い、800万票以上の高得票で再選された。民進党政権は反中路線を継続したものの、4年後の総統選で頼清徳氏は250万票以上も減らした。

 その間、台湾は痛ましい代償を払った。台湾の多くの産業は、今や民進党の徹底した反中政策に耐えられなくなっている。仕事がなくなれば、イデオロギーでは生きていけない。こうした軌跡を、日本も近いうちに経験することになるだろう。多くのサプライチェーンで、中国大陸と全面的に敵対するなど不可能だ。理性的な判断に立ち戻れば、中国大陸とは正常な関係を維持しなければならないはずだ。

「中国人」であることと「台湾を愛すること」は矛盾しない

Q:あなたは自らを「中国人」だと語り、習近平氏と会見した。世界的な反中感情の中で、あなたを「中国に近づきすぎている」と批判する人たちがいる。

A:どちらがより「反中か」「アメリカの言うことを聞くか」を競争したところで、国民党は民進党には勝てない。では、国民党が存在する価値とは何なのか。党主席に就任して以来、私の掲げる路線や主張は、国民党党員の少なくとも8割が支持している。そして、国民党の支持者たちも、この問題について堂々と語る党主席が現れたことで、非常に熱くなっている。

 民進党は、意図的に脱中国化を進め、「台湾」と「中国」を対立させてきた。しかし、私たちは100%の「チャイニーズ」であり、中華民族の一員だ。中国の文字を使い、中国式の姓名や習慣を持っている。中国の旧正月(春節)を祝い、中国の神々を祀っている。

 アイデンティティーに関わる文化的、血縁的な認識を、政治化すべきではない。台湾では選挙になると、「台湾を愛している」をスローガンに競い合っている。しかし、「チャイニーズ」であることと「台湾を愛している」ことは、矛盾しない。それを対立するものとして捉えることは、政治的操作の結果だ。

 また、中国大陸の急速な台頭によって世界が「チャイニーズ」を恐れるようになった。しかし、中華文化の復興は他の文明に対する脅威を意味しない。中華文明が強調するのは、「世界大同(すべての人が平等で調和して暮らす理想の平和社会)」や「天下為公(天下は万人のものである)」だ。調和を重んじる東洋の知恵。私たちが「チャイニーズ」だと言う時、それは他の文明と平和的に共存し、人類に対してより大きな貢献をしたいということなのだ。

「92年コンセンサス」における「一つの中国」の意味とは

Q:あなたが中国大陸を訪問して習近平氏と会談した際、「92年コンセンサス」堅持と「台湾独立反対」で認識が一致したと報じられている。この二つの前提について説明していただきたい。

A:「92年コンセンサス」とは、「両岸は共に一つの中国に属する(両岸同属一中)」ということだ。台湾がそれを受け入れることができたのは、私たちの中華民国憲法が「一つの中国(一個中国)」を前提とした憲法だからだ。台湾は何も犠牲にする必要がない。

 台湾海峡両岸は1895年(日清戦争による日本への台湾割譲)以降、100年以上にわたって分離してきたため、それぞれに異なる制度や生活様式を発展させた。違いがあるからこそ、関係を築くための共通の基盤が必要だ。それが「両岸は共に一つの中国に属する」だ。

 中華民国は私たち国民党が創設し、中華民国憲法も私たちが制定した。私たちは台湾独立に反対し、「一つの中国」を前提とした中華民国憲法を堅持してきた。しかも、中国大陸と国交を持つ世界各国はすべて「一つの中国」を認めており、台湾独立を支持している国は一つもない。

 李登輝氏(総統在任1988~2000年)、陳水扁氏(同2000~2008年)、蔡英文氏の各総統も、台湾独立を実現できなかった。現総統の頼清徳氏は、「台湾独立という問題は存在しない」と発言している。台湾独立は、もはや実体のない争点だ。

 これに対して、「92年コンセンサス」を基礎として両岸の平和的な対話と交流を進めれば、台湾はこれまで築き上げてきた民主、法治、自由、経済的豊かさを犠牲にする必要がなく、むしろ台湾が享受している生活様式や成果を守ることができる。「92年コンセンサス」は、民進党が宣伝するような降伏でも、中国大陸の制度の全面的な受け入れでもない。中国大陸側も、そのようには考えていない。

Q:習近平氏はあなたと会談した際、台湾の現在の生活様式を尊重することに言及したと報道されている。

A:習近平氏も、長い年月をかけて形成されてきた台湾海峡両岸の違いや隔たりについては、忍耐強く対話し、解消していく必要がある、と述べている。当然、一朝一夕に解決できるはずがない。

Q:民進党の頼清徳総統は、自分たちの主張は「独立」ではなく「現状維持」だと語っている。

A:現在の民進党は、台湾独立とは言わないが、実際には「二国論」(台湾と中国はそれぞれ別の国だという主張)を進めている。今も「台湾独立党綱領」(台独党綱)を撤回していない。「一つの中国」を基礎とする「中華民国」の看板を借りて、実質的な台湾独立へとすり替えている。表向き「台湾独立」とは言わなくても、実際は台湾独立につながることをやっている。だから、中国大陸と対話ができない。

 民進党は票を得るために有権者を欺き、自分自身も欺いている。そのために無意味に中国大陸を挑発し、両岸が軍事衝突に発展する危険を招いている。非常に無責任だ。

台湾の民主化は民進党ではなく国民党の功績

Q:あなたはかつて民進党に所属し、国民党に移った。なぜそのような選択に至ったのか。

おすすめの記事

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

注目の特集

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの電子書籍

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

おすすめの動画

すべて見る
戻るボタン 次へボタン

ニュースレターを購読する

新潮QUEは、「問う力」を養っていくためのサブスクリプションサービスです。

無料登録する