「ウェルビーイングを高める客室乗務員になろう」
服部 日本航空は社員のウェルビーイングに積極的に取り組んでおられます。なかでも客室本部長の中野さんは、客室乗務員(CA)のウェルビーイングのためさまざまな施策を打ち出されたと伺っています。きっかけは何だったのでしょう。
中野 鳥取(三津子・現社長)から客室本部長を2023年に引き継いだ当時、コロナ禍が明けましたが、まだ大勢の客室乗務員が他の企業に出向しておりました。
服部 あの時、お客さまが激減して飛行機も飛べなくて、みなさん他社で違う業務をしていたのでしたね。
中野 ご縁のある企業さまに活躍の場を作っていただきまして、約2000人が出向し、本当に貴重な経験をさせていただきました。私が引き継ぐ少し前の22年の終わりから徐々に運航便が増え、次第にお客さまが戻ってきてくださった。こんなに嬉しいことはないにもかかわらず、満席便の乗務や担当する便数も増えるなど、急激な変化に心も身体も対応できない乗務員が多くいた現実がありました。この状況をなんとかしなければならないと思い、「お客さまに喜んでいただくことが本当の喜び」という私たちの仕事の本質を思い出してほしいと考え、23年に「笑顔で仕事を楽しむ」というスローガンを掲げました。さらにこの本質を突き詰めるために、「ウェルビーイングを高める客室乗務員になろう」と打ち出したのが24年のことです。
服部 ちょうど2年前になりますね。
中野 元々弊社の企業理念には「全社員の物心両面の幸福を追求し、一、お客さまに最高のサービスを提供します。一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します」とあります。
服部 それは何年前に掲げられた企業理念ですか。
中野 2010年の経営破綻時、稲盛和夫さん(当時京セラ株式会社名誉会長)が会長に就任され、改革の一つとして企業理念が策定されました。その実現に向けて社員がベクトルを合わせて進むことができ、「生まれ変わることができた」と私たちは思っております。それ以来、全社で「幸福の追求」に向けて取り組むようになりましたが、当時はまだウェルビーイングの捉え方もさまざまだったと思います。
服部 ウェルビーイング自体がまだちゃんと具現化されていなかったので、みなさん何から始めればいいかよくわからなかったかもしれませんね。幸せと言っても人によって価値観が違いますし。
中野 漠然としていましたね。私としては、企業人が目指していくのは、仕事に一生懸命取り組んで得られるやりがいや、達成感から生まれる幸福感ではないかと考えました。これを追求しようと思いました。
服部 具体的にはどんなことに取り組まれたのですか。
中野 まずは、客室乗務職の人事賃金制度の改革を行いました。実力を高めた客室乗務員が早期に昇格できる制度を導入したことで、キャリアアップがより明確になりました。
服部 何かテストとか、資格試験みたいなものを設けられたのですか。
中野 機内サービスの資格を細かく決めました。エコノミークラスから始まり、そこでの取りまとめ役ができるようになると今度は長距離線のビジネスクラス資格取得に進み、自分でキャリアを意識しながら、頑張ればステップアップしていける仕組みです。
服部 年功ではなくて、頑張った分、目に見える形で自分に返ってくるのですね。
中野 この改革で、キャリアアップを目指して頑張っている姿を目にします。責任ある仕事に就くことで責任感が増し、やりがいは深まります。チームへの貢献度が上がってくると、仕事に対する向き合い方も変わり、会社へのエンゲージメント(愛着)が高まってくる。この効果はあると思います。
服部 伺ったところによると、客室乗務員が約8000人。それを本部長である中野さんが束ね、その上に社長の鳥取さんがいらっしゃる。
中野 鳥取はJALグループのCEOで、約4万人のトップになります。
服部 すごいですよね。サービスといえば、お客さまに現場で接しているCAが一番わかっていらっしゃるから、CA出身の鳥取さんがトップというのは、私たち利用者にはとても親近感があるし、嬉しいなと思います。
中野 やはりお客さまがどう思っていらっしゃるか、お客さまの反応がどうだったかというのは鳥取が常に考えていることです。客室乗務員時代の考え方が染みついていると思います。
自律的に将来のキャリアをデザインできる制度
服部 先ほどCAがたくさんいらっしゃる職場を拝見させていただきましたが、女性の私でもテンションが上がりました。みなさん、綺麗で素敵です。しかも、みんな生き生きとしていて。華やかさというのは大事なことですね。
中野 もちろんプレッシャーはありますが、「この仕事ができて嬉しい、頑張りたい」という気持ちの、何か幸せな心みたいなものが出ていると思います。
服部 機内資格以外にも何か取り組まれたことはありますか。
中野 地上業務の配置には、「ジョブポスティング(手挙げ)制度」を採用しました。乗務員にとって乗務する・しないは大きな変化でもあるため、従来は会社から通知していましたが、意志のある乗務員が挑戦できる仕組みとしました。例えば、国際線のサービス企画業務などがその一例です。
服部 やりたい職場、やりたい仕事に就くチャンスを与えるということですか。
中野 はい、地上業務を経験して新たな強みを身につけて、再び乗務に戻った時には、広い視野を持ってさらに品質の高いサービスの提供に臨むことができます。自律的に将来のキャリアをデザインできる制度になるように、ジョブポスティングの対象を広げていきました。これも改革の一つだと考えております。
服部 なるほど。
中野 他にもお伝えしたいのが、客室乗務員の休職者数についてです。現在1200人ほどが休職しております。
服部 え、どうしてですか? そうか、出産や育児休職ですね。
中野 やはり20代後半から30代前半の乗務員が多く在籍しておりますので、出産、育児を経験した社員が乗務をあきらめて退職するのではなく、どうすれば子育てをしながら仕事を続けていけるか、子育てが一段落したあとに、またフルパワーで業務に臨んでもらうにはどうすればいいかを考えました。さまざまな経験をした乗務員が在籍していることが重要で、全体のサービス精神が必ず上がると思っています。
服部 そのために何をされたのですか。