9月13日、スウェーデンで4年に一度の総選挙が実施され、僅差で野党側の勝利となった。前回選挙から引き続き第一党となった社会民主党(99議席)を筆頭に、左派党(30議席)、中央党(25議席)、環境党(22議席)の4党で合計176議席を獲得した。国会の総議席は349であり、過半数の175議席を1議席上回った。
他方、ウルフ・クリステション(Ulf Kristersson)首相擁する穏健党(70議席)、キリスト教民主党(22議席)、自由党(19議席)の与党3党と、閣外協力で政府を支えたスウェーデン民主党(62議席)からなる「与党陣営」は173議席にとどまった。
前回2022年選挙では、これとは反対に与党陣営が176議席、現在の野党側が173議席だった。そのため、今回の選挙により政権交代の可能性が高いとされ、9月17日にクリステション首相は辞任した。
しかし、この結果を単純な「野党の勝利」と捉えてはならない。注目すべきは、急進右派のスウェーデン民主党だけでなく、野党側の中心である社会民主党も得票率を減少させたことである。
「スウェーデンを再びスウェーデンに」を掲げるも初の議席減
スウェーデン民主党は、1988年に初めて国政選挙に挑んで以来、得票率を伸ばし続けてきた。2010年に国会での議席配分に必要な4%を超えて初の議席を獲得し、2014年には第三党となった。
当初、他党はスウェーデン民主党との協力を拒んでいた。スウェーデン民主党の起源の一つにはナチズムと関係を持つ極右勢力があり、また、反移民政策を訴える同党関係者による人種差別的な言動が繰り返し問題となっていたためである。
しかし、移民・統合問題が政治的争点として重要性を増すなかで、スウェーデン民主党は党の穏健化を進めながら支持を拡大していった。それにともなって政党間の協力関係が変化し、2019年にはキリスト教民主党や穏健党が、それまでの方針を転換し、スウェーデン民主党との政策対話を開始するに至った。
2022年選挙ではスウェーデン民主党が20.54%を獲得して、穏健党を抜き第二党となった。クリステション政府には参加しなかったものの、閣外協力を通じて政府を支え、とりわけ厳格な移民政策に大きな影響を与えてきた。
今回の選挙でもスウェーデン民主党は「安心、自由、スウェーデン人」をスローガンに、移民のさらなる抑制や治安強化などを訴えた。選挙ポスターの一つには、「私たちはスウェーデンを再びスウェーデンにする」という言葉が掲げられた。具体的な政策としては、移民の永住許可を遡及的に取り消すことを可能にする法律の整備などを挙た。
しかし、得票率は17.48%に低下し、第二党の座も再び穏健党に譲った。2024年の欧州議会選挙でも得票率を減らしていたが、国政選挙では初めての後退となった。
「移民の票」が増えたことで左派が勝利した?
9月15日、穏健党議員が英国の雑誌に、人口動態が野党側の勝利につながったという主旨の記事を投稿した。同議員は、この4年間で20万人以上にスウェーデン国籍が与えられ、彼らが移民に寛容な左派系の政党に票を投じたと主張した。
また、時期を遡るが、選挙戦の終盤にはスウェーデン民主党のインミ・オーケソン(Jimmie Åkesson)党首も、投票権を持つイスラム教徒たちが選挙結果に影響を与えると訴えていた。選挙後もオーケソンはスウェーデン民主党の敗因について「社会民主党と左派党がイスラム教徒の動員に成功した」とコメントした。
確かに、左派党は今回の選挙戦で全国的に戸別訪問を強化しており、実際に大都市郊外の経済的に裕福ではない地域で投票率の向上や左派党の伸長が見られた。
しかし、これだけをもって「移民票が与党陣営の敗北をもたらした」と結論づけるのは早計である。特にスウェーデン民主党の後退を理解するためには別の要因にも目を向ける必要がある。
移民規制に成功すれば移民が争点でなくなる皮肉
スウェーデン民主党の後退の背景に挙げられるのは、有権者が重視する争点の変化である。
選挙後の調査では、48%の有権者が投票先を決める際にスウェーデン経済を「非常に重要」と考えており、個人の経済状況についても39%が「非常に重要」と回答した。いずれも前回選挙より重要度が増していた。
そして、経済問題への対応で有権者から最も高い評価を受けたのが穏健党だった。穏健党が得票率を増加させた背景には、スウェーデン経済に関する穏健党への信頼があった。選挙戦の最後の1カ月で「与党陣営」は巻き返しを見せたが、その巻き返しを担ったのが穏健党だった。
これに対し、スウェーデン民主党が強みを持つ移民や治安の問題は、多くの有権者にとって最大の関心事項とはならなかった。
ここには一種の皮肉がある。クリステション政府はこの4年間、移民の受け入れ要件を厳格化し、難民の受け入れ数を大幅に減少させた。そして、その政策を強力に後押ししたのが閣外協力するスウェーデン民主党だった。
つまり、スウェーデン民主党が自らの政策を政府に反映させた結果、移民問題の重要度が相対的に低下し、経済問題が前面に出たのであれば、同党は自らの政策的成果によって得意な争点での優位性を十分に発揮できなくなったともいえる。
若者の支持離れと「親ロシア」疑惑という失点
さらに、スウェーデン民主党が「与党陣営」の一員となったこと自体も影響した可能性がある。かつて同党は既成政党に対する不満の受け皿だった。しかし、政府の政策形成に直接的な影響を及ぼすようになれば、「反既成政党」という性格は当然弱くなる。
特に注目されるのが若年層でのスウェーデン民主党に対する支持率の低下だった。18歳から21歳のスウェーデン民主党の得票率は、前回の22%から15%へと7ポイントも低下した。同党全体の下落幅が約3ポイントだったことと比較すると、若者の支持離れは顕著である。
加えて、選挙戦後半にはスウェーデン民主党の失点もあった。首相府で与党との政策調整を担当していた同党職員のグスタヴ・イェッレルブラント(Gustav Gellerbrant)の同棲相手であるロシア出身の女性について、ロシアとのつながりや親ロシア的な情報を拡散していたとの疑惑が報じられた。