投資家の予測を遥かに超えたOpenAI・Anthropic
──SV Angelは4年前からOpenAI・Anthropicに投資していたことで知られています。当初、投資家から見て両社はどのような存在だったのでしょうか。
同社パートナーのアシュヴィン・バチレディ氏(以下「バチレディ」) 世界で最も優秀なAI研究者たちが、小さな組織でイキイキと研究開発に勤しんでいるという点において、両社とも興味深い企業だと思いましたね。
SV Angelが両社に投資したのは2022年ですが、製品デモを見た際、これは非常に大きなパラダイム・シフトになるだろうと直感しました。モデルが学習を重ねれば重ねるほど、賢くなっていく様がありありと見てとれたからです。
私はAirbnbやSnapchatなど、人々の生活にすでに根付いた企業への投資を手がけたことがありますが、フロンティアAIモデルが文明に与えるインパクトは過去のどんな技術とも比較できません。
第一、2022年にはOpenAI・Anthropicともに売上がほとんど立っていない状態でした。それが今日では数百億ドル規模の売上を生み出そうとしているのです。これほど短い期間で、これほどの売上を記録した企業を私は知りません。
事実、投資家としてOpenAI・Anthropicの2社に投資する際に作った売上規模などの予測を大幅に上回るほどの成長を、両社は記録しました。
結局、フロンティアAIはビジネスモデルに長けているから、凄腕の営業チームを作れたから成功した、というより「技術そのもの」が成長の要因なのでしょう。
1年前のChatGPTやClaudeのことを考えてみてください。現在の能力と比較しても、天と地ほどの差があるでしょう? フロンティアAIは指数関数的に賢くなり、人間の仕事と生活を効率化しています。AIエージェントを使えば、これまで人力でやっていた作業を代替することも可能なのは、読者の皆様が理解されている通りでしょう。
寡占下で進む競争の激化は適切か、リスクか
──Anthropicの創業背景には、OpenAIの「安全性」に対する優先順位に疑問があった、と言われています。両社の違いは、創業当時から鮮明だったのでしょうか。
バチレディ 私たちが投資した当時の両社は基本的にはよく似ていましたね。フロンティアAIモデルの開発はOpenAIが先行していましたが、才能のある研究者たちが、野心的なプロダクトを作ろうとしている、という点ではほとんど同じだったと思います。
──現在の両社は、かなり異なる立場に立っているように見えます。AnthropicはAIの暴走を明確にリスクとして打ち出す価値観から「憲法」のようなものを設定しています。
バチレディ AIの安全性、という観点においては、誰もがまだ答えを探している段階なのだと思います。現時点で「世界がどのようにフロンティアAI開発と向き合っていくか」を決めるのは困難です。今私たちが考えていることが、半年後には意味をなさなくなっているかもしれません。あまりにも最新のモデルの開発速度が速いのですから。
ビジネスの立ち位置としては、OpenAIは消費者向け、Anthropicはビジネス、特にコーディング分野に圧倒的な強みを持っていますが、時間が経つに連れて、両社とも非常によく似た事業をやっていくのだと予想しています。
OpenAI・Anthropicに限らず、Gemini、Grokも成長していますが、彼らの開発を見ていて興味深いのは、1社がベンチマークを作るたびに、別の会社がそれに追いつき、追い越す、という流れが定着していることです。ですから、現時点でモデル企業が差別化を図っているのは、戦略上当然ですが、他社も指を咥えて傍観している、ということはこの業界ではあり得ないのだと思います。
──フロンティアAI各社の中での競争が激しくなっていく、と。
バチレディ 基本的に、先ほど挙げた4社がこれからも市場を牽引していくことが確実なように思われますね。つまり他社が割って入ろうにも、莫大な資金を引っ張ってきて、計算資源を確保し、学習を進めなければいけませんから。
ただ、フロンティアAIの市場がある種の飽和に達している、ということはまだまだないと思います。つまり、AIを使っていない人たちもまだ存在しているからです。インターネットやスマホが社会的なインフラになったように、AIもそうなっていくでしょう。ですから、フロンティアAI開発企業のビジネスはまだまだ伸びますよ。
──検索エンジンという市場においては、結局Googleが独占的な地位を占めるようになりました。限られた企業が市場を独占すればするほど、経済的・社会的な規制の議論も高まってきたわけですが、フロンティアAIにもこの議論は適用されると思いますか。すでに「AIの暴走は人類にとってのリスクだ」とするような論調もあります。
バチレディ 私の立場からはなんとも言えないところがあります。ただ、少なくともアメリカの立場からすれば、フロンティアAIの開発を遅らせることは、国家安全保障上のリスク、と認識されているのだと思います。AI開発において、他国より優位に立っていないといけませんから。
私も基本的には、アメリカという国はイノベーションを促進させる環境であり続けるべきだと考えています。テクノロジーという分野に長年投資してきた立場から言っても、結局のところ「人々がある技術を求めているのなら、最終的にはそのテクノロジーは社会的に実装される」という確信を持っています。
日本企業が意思決定を早めないといけない理由
──日本はフィジカルAIの分野で官民あげた取り組みを進めています。投資家としてはこのトレンドをどう見ていますか。
バチレディ 日本はAIを必要としている国だと思います。高齢化が進んでいる国ですし、生産性を高めるためにも、AIを使わないといけないと思いますね。
フィジカルAIについては、日本が進むべき道筋は正解だと考えています。製造業に強みを持っているのが日本ですから、そこにAIの技術的な恩恵を加えるというのは、真っ当な発想です。
現実的に言えば、ハードをつくる企業においてもAIをどこかのプロセスにおいて導入しなければ、AIを効果的に使っている企業と比較して、非常に大きな不利を抱えることになると思います。
また、AIを伴うビジネスにおいては、意思決定の速さと柔軟性が特に問われることになると思います。フロンティアAIのビジネスモデルは利用量に応じた課金制度で、従来のソフトウェアのように「定額使い放題」ではない点が経営者を悩ませるでしょう。
ただ、コストバランスに気を取られるあまり、AIの比較に時間を取られすぎると、フロンティアAIは次々に新機能を追加していきます。つまり、導入に時間をかけすぎると、導入しようとしていた前提まで変わってしまうという別のリスクがあるわけです。
ビジネスとしてのAIとの付き合い方において、最初から完璧な運用を目指すのは難しいと思います。だからこそ、意思決定のスピードを高め、走りながら考えていくことが重要になってくるのだと考えます。