年少から続けてきたサッカーをやめて中学受験に
東急線沿線に暮らす吉田さん一家(仮名)の中学受験は、長男のアツシさんが小学3年生の夏に始まった。きっかけは意外にも、幼稚園の年少から続けていたサッカーを本人が「やめたい」と言い出したことだった。それを機に、入塾の話が持ち上がった。
幼い頃は楽しく通っていたサッカーだったが、温厚なアツシさんには、相手に立ち向かってボールを奪いにいく競技があまり合わなかったのかもしれない。学年が上がるにつれ、練習や試合への参加をつらく感じるようになった。母親もそのことには薄々気づいていたものの、
「一度始めたことを途中で投げ出してもよいのかという思いもあり、そのまま続けさせていました」(母親)
だが、本人から面と向かって「やめたい」と言われれば、考えざるを得ない。本人にやる気があるのならともかく、下の子もいる中、厳しい暑さや寒さの時期に練習や試合へ同行することを、母親自身もつらく感じ始めていた。それでも、このままやめさせてよいのかという迷いは、心のどこかに残っていた。
「アッくんはじゃあ、なんだったら頑張れると思う? 」
という母親の問いかけに、アツシさんからは意外な言葉が返ってきた。
「勉強」
話を聞くと、周りの友達の中で塾に入る子が増えてきて、自分もやってみたいというのが「勉強」という答えの裏にある気持ちだった。
吉田家の学区にある小学校は、1学年60~70人ほどと児童数が比較的少なく、中学受験をするのは約半数だった。8割が受験する地域に比べれば、受験熱はそれほど高くない。一方、駅近くのマンションが立ち並ぶ地域の学校では、「7割近くの子が受験している印象でした」と母親は話す。
駅前の様子を見れば、その印象にもうなずける。首都圏の難関中学受験をけん引するサピックスをはじめ、日能研、早稲田アカデミー、四谷大塚、グノーブル、栄光ゼミナール、臨海セミナーなど、定番の塾が全てそろっていた。需要がなければ、これほど多くの塾が教室を構えることはないだろう。他方で、塾に通う子が増えるほど受験を目指す家庭も増えるという、鶏が先か卵が先かの状況も生まれている。
実際、比較的のんびりした地域に住む長男も、友人の影響で中学受験に興味を持ち始めていた。吉田家の場合、受験に前向きだったのは父親だった。地方出身の父親は大学進学を機に上京、学生時代は自由が丘の塾で講師をしていたという。公立中学の生徒を担当していたが、学習の習熟度の低さを強く感じた経験があった。そのため、塾に興味を示した息子の考えにもすぐに賛成したのだった。