投げ銭で1億円を稼ぐ「危険人物」
ニック・フエンテスという28歳の若者をご存知だろうか? フエンテスは11月3日の米中間選挙において、共和党への投票拒否を呼びかける「アメリカ第一主義(America First)」の論者として、オンライン上で支持を集めている。
フエンテスはそもそも、アメリカでは危険人物として扱われている。YouTubeやFacebook、TikTokなどの主要プラットフォームからは事実上追放(※)されているため、Rumbleという一風変わったメディアで投げ銭(スーパーチャット)を得ることで言論人として生活していると見られる。
実際、フエンテスの商売はかなり手堅いようだ。米The Washington Postは、2025年1月から2026年3月までの投げ銭の総額が約90万ドル(約1億4000万円)に達したと報じている。なんと1万1000人の寄付者がいた、と同紙は付け加えるのだ。
(※)Xでは公式マークが付いていないだけで、本人のアカウントは存在する(フォロワー数は約130万人)。フエンテスは常々、「公式マークを付けてくれない」とのことで同じく保守派のイーロン・マスクを攻撃しているが。
フエンテスは2016年からトランプ支持を明確にし、2021年には議会堂襲撃事件にも関与していた。The New York Timesのインタビューには「以前は(トランプを)西洋文明を救うカエサルのような人物だと思っていた」と答えるなど、MAGA運動にシンパシーを持っているように思われてきた。
そんな彼はきたる中間選挙に向けて、「トランプはダメだ。民主党に投票しよう」と煽動する。フエンテスはトランプ大統領の対イラン政策に大反対であることに加え、そもそも上下両院において共和党の影響力が強すぎることを問題視している。
ヴァンス副大統領に対しても「ピーター・ティールが研究室で作り上げた、完全な人工物」として批判キャンペーンを張るなど、かつてあれほどMAGAを推した姿からは想像もつかない主張を繰り返している。
共和党議員や保守派の論者もフエンテスやその支持者らを快く思っていない。保守派の主要な集会であるCPACやTurning Point USA(25年に銃撃された故チャーリー・カークが創設した)からは出禁になっている。
共和党内部でも広がる、Z世代のフエンテス支持者たち
なぜ、フエンテスはこれほど危険視されるのか。それは同氏の主張が非常に過激だからだ。保守運動は「イスラエル・ロビーの道具」、フェミニズムは「根絶しなければならない」、黒人は「同胞の犯罪に対して、恥じるべきだ」──。
動画配信者が過激な主張を繰り返すだけなら、それほどの影響力はないとも思えるかもしれない。ところが、フエンテスの主張に共感する支持者たち、通称グロイパー(Groyper)は相当数いて、なんと共和党内部のスタッフにも多数いると推定されているのだ。
保守系作家のロッド・ドレアは、ワシントンで働く30歳未満の共和党スタッフの30〜40%がグロイパーの可能性がある、と指摘する。The New Yorker誌のルポでは、政府当局筋の話として、「一般の人から見れば75%程度がグロイパーと映るかもしれない」とその広がりが強調されている。
この当局筋は続けて、「フエンテスとその支持者たちの運動は、サイレント・マジョリティの右傾化という大きな社会学的現象から派生した存在だ。今や、トランプ運動を超えたものへと発展している」とコメントしている。もはや一部の過激な少数派たち、と過小評価できないのかもしれない。
実際、共和党の現職議員たちも、フエンテスとグロイパーたちの影響力に困惑している様子が伝わってくる。米The Wall Street Journalの論説『Republicans have a ‘Groyper’ Problem』では、テッド・クルーズ上院議員の「グロイパー問題は現実のもの。過去2年間、私の人生の中で見たことがないほど、右派による反ユダヤ主義を見せつけられてきた」というコメントを紹介した。
なぜニック・フエンテスは人気を集めているのか。彼の影響力はどれほどのものなのだろうか。そして、ポスト・トランプを見据えた時、アメリカの保守主義はどのような分裂を見せるのだろうか。
オルタナ右翼の研究者が注目するフエンテスのレトリック
『The Rise of the Alt-Right』(2018年)などでアメリカのオルタナ右翼の研究を続けてきたニューヨーク市立大学教授で政治学者のトーマス・メイン(Thomas Main)氏は、フエンテスに代表されるような過激派を「自由民主主義の本質への否定的勢力」と表現する。