Vol. 1

医療・ウェルネス

医師と患者の対話で導き出される「賢明な選択」

2026年6月1日


<span>医師と患者の対話で導き出される「賢明な選択」</span>

 医師が必要以上の診療行為を行う「過剰診療」が横行する昨今、医師と患者はどうすれば「Choosing Wisely(賢明な選択)」に辿り着けるのか。「あらゆる医学的処置は患者の健康のために行われるべきものだ、という当たり前のことを若い医師に伝えたい」――そう話すのは東光会総合医学研究所(京都市)所長の小泉俊三氏。日本における「Choosing Wisely」運動を牽引してきた第一人者である。米国で実践される「Choosing Wisely」の現在と、日本での普及状況や課題について解説してもらった。

米国では専門領域ごとの低価値医療リスト「トップファイブ」が策定されている

 2023年5月、新型コロナウイルス感染症の5類移行を機に、コロナ関連補助金の段階的縮小と終了で全国の病院の経営状況が悪化、さらに物価高や光熱費・人件費の高騰が続いたことで赤字に転落する病院が増加した。厚生労働省の医療経済実態調査によると、2024年度は全国の病院の7割弱が赤字だったという。

 もちろん、多くの病院は業務効率化や経費削減などに取り組んでいるが、それにも限界がある。となれば、収益を上げるためにとにかく多くの検査や手術をこなすしかない。結果、必要以上の検査や手術で患者が日々の生活や仕事に支障をきたしたり、余計な心配や不安、痛みや苦痛を体験するだけでなく、有害事象(医療事故)が起こったりするケースも増えてしまうのだ。

「たとえ経営の危機に瀕していても、病院経営者はもちろん、医師一人ひとりが医療の本分を守り、医療資源の適正な活用を心掛けることを第一としなければなりません」

 そう話す東光会総合医学研究所(京都市)所長、佐賀大名誉教授の小泉俊三氏はこの十数年、日本における「Choosing Wisely(賢明な選択)」の普及に尽力してきた。……

「Choosing Wisely」とは、2012年に米国内科専門医機構財団が始めた過剰診療防止の啓発キャンペーン。患者に益が少なく苦痛や危険を伴う可能性がある上、多くの費用がかかる「低価値医療」をできるだけ減らし、患者に苦痛が少なく安全で費用も比較的少なく済む「高価値医療」を普及させることが目的だ。患者が真に必要とする治療や検査、手術、薬などを選択できるよう、医師と患者が科学的エビデンスに基づいて対話することを促す、というわけだ。

「患者アウトカム(治療や看護によってもたらされた患者の健康状態の変化、結果)」を「コスト」で割ったのがその診療行為の「バリュー(価値)」だが、Choosing Wiselyの文脈で言われる「コスト」は診療行為にかかる費用だけを指すのではない。診断・治療に伴うリスクや患者の苦痛、不便、そして昨今では「プラネタリーヘルス(人の健康だけでなく、地球における生物圏全体の健康を目指す概念)」の観点から環境への負荷も指摘されるようになった。これらのコストを可能な限り少なくし、高価値医療を推進することが保健・医療システムの維持につながるという考えが、Choosing Wiselyの旗印の下で世界的に広がっているのだ。

 特にChoosing Wisely発祥の北米では、十数年前から医学界をあげての動きが活発化している。米国内科専門医機構財団が全米の専門医学会などに宛てて「日常的に実施されているにもかかわらず、明らかに低価値とみなされる診療行為を5つ列挙する」ことを呼びかけたところ、多くの臨床系専門学会の賛同を得てわずか数年で500~600もの専門領域ごとの低価値医療リスト(トップファイブリスト)が提出されたそうだ。

「このように臨床系の専門学会がリーダーシップを発揮して Choosing Wisely のトップファイブリストを公開したことで、米国の医師たちはこれを念頭において診療に当たらざるを得なくなっています」

 と小泉氏は話す。

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