健診で聴こえた心雑音、「安心」のために心臓のCTまで撮るのは過剰診療か
小泉氏によると、ある検査や手術、薬の処方などが「賢明な選択」(患者に大きな益があり、かつ苦痛が少なく安全で費用も比較的少なく済む「高価値医療」)かどうかを判断するポイントは、まずその診療行為に「エビデンスがあるか」「(すでに行われた診療と)重複がないか」「害がないか」「本当に必要か」の4つだという。
だが、実際にはその線引きは難しいケースが多いのではないか。というわけで、次のような診療の事例を小泉氏に投げかけてみた。
〈患者は40代前半の男性。これまで毎年の健康診断で大きな問題を指摘されたことはなかったが、今年は聴診の際に「心雑音が聴こえますね、かかりつけの病院などで心臓エコー検査(超音波検査)を受けてください」と言われた。後日、近隣の循環器内科を受診したところ、医師からは「今、聴診しても心雑音は聴こえませんでしたが、どんなリスクがあるかわからない。弁膜症や心筋症の可能性など心臓の病気は怖いので、エコーだけでなくCT(コンピュータ断層撮影)も予約してください」との指示。不安に駆られ、言われるがままに心臓エコー検査とCT検査を予約。仕事で忙しい日々の隙間時間に何とか検査を受け、数日後に結果を聞きに行ってみると……結果は「まったくの健康な心臓、何の問題もなし」〉
循環器内科の医師がこの患者に行ったのは果たして「賢明な選択」だったのか、あるいは過剰診療だったのか。小泉氏の回答はこうだ。
「まず、健康診断の際に医師が心臓エコー検査を勧めた件について。その際にどの程度の問診が行われたのかはわかりませんが、聴診で何らかの異音・雑音が聴こえた場合、医師の脳裏には患者の年齢や体型、生活の状況などを踏まえた様々な鑑別診断の可能性がよぎります。患者に特に自覚症状がなかったとしても、健診を担当した医師が『念のため心臓エコー検査を受けておくと安心ですよ』程度のことを伝えるのはごく自然だと思います。特に、前回の健診では心雑音がなく、新たに出現した所見ということならなおさらです」
循環器内科を受診した際の医師の対応については、
「エコー検査に加えて、CTまで撮るというのはどう考えてもやりすぎではないかと思えてなりません。確かにCTでないと見つからないリスクが潜んでいる可能性はありますが、患者に自覚症状がないならまずはエコーだけ実施し、その結果を見た上で次にどうするかを患者と話し合うべきです。聴こえていた心雑音が聴こえなくなったことから特殊な病態が想起されたのかもしれませんが、通常は、エコーだけでは確定しがたい構造上の異常が見つかった場合とか、何らかの治療上の介入の前提としてCT検査が実施されます」
エコー検査で問題が見つからなかったとして、それでも患者が不安を口にしたり、「そう言えば最近、胸がチクチクするような気がします」などと自覚症状を訴えたりした場合はどうだろうか。
「エコーで問題が見つからなくても何らかの自覚症状がある場合、話は少し違ってきます。胸のチクチクは仕事のストレスのせいかもしれないし、心雑音を指摘された不安からかもしれません。あるいは、症状の起こり方によっては心臓の血管が狭くなっていたり、40代前半で元気に仕事をしている人では可能性は低いと思いますが、弁の開きが悪くなっているからかもしれない、と考える場合もあります。原因がわからない時には、いったん、心臓の負荷を軽減する血管拡張薬『ニトロペン』を処方して様子を見る、という手があります。これを用心のために持ってもらい、症状が出た時に服用してもらう。それで変化がなかったら、胸のチクチクはストレスなどによるものである可能性が高い。もし症状がやわらいだ場合、心臓の血管に何かしら問題がある可能性が出てくるので、そこで初めて、この段階で冠動脈CTも精密検査の一つとして考慮することになります。もちろん、もっと前の段階に問診で探った自覚症状から危険性が高いと判断した場合は事を急ぎますが、そうでないなら丁寧に段階を踏むことが肝心です。最初からエコーとCTをセットで行う前提で、医師がそれしか選択肢がないかのようなことを患者に伝えていたとしたら、それは過剰診療といえると思います」