「蕁麻疹は血液検査不要」をなかなか納得してくれない患者たち
過剰診療が横行してしまう原因は、医師の側だけにあるのではない。谷口氏によれば、
「日本の医療業界では昨今、患者が真に必要とする治療や検査、手術、薬などを選択できるよう、医師と患者が科学的エビデンスに基づいて対話することを促す『Choosing Wisely』運動(「医師と患者の対話で導き出される『賢明な選択』」参照)が広がっており、この考え方の下で『現在、自分が行っている診療行為に無駄や不要なものはないか』を検討する医師も徐々に増えています」
だがその一方で、患者の側でChoosing Wiselyを意識している人は少ないのが現状。前記事でも触れたが、原因不明の症状への不安を抱えて来院する患者の多くが精密検査を望む実態は、まさにその証左と言えるだろう。そうした相談事例としてもう一つ多いのが「蕁麻疹(じんましん)が出たから血液検査をしてほしい」というものだという。
蕁麻疹は大半が疲労やストレス、物理的刺激(寒冷、日光、圧迫、発汗)などが原因で発症するもので、一部のアレルギー性のものを除いて血液検査は不要だ。
「それでも『これまでこんな症状になったことはないので、とにかく血液検査をしてみてほしい』と不安に駆られる患者さんの気持ちもわかります。だからその気持ちを尊重しつつ、『このタイプの蕁麻疹は血液検査をしても意味がない、時間とお金を無駄にするだけですよ』ということをなるべく丁寧に説明するのが医師の役割だと思います」
ただ実際には、説明を尽くしても引き下がらない人がけっこうおり、特に最近では「近所のおばちゃんに言われて来ました」「テレビで●●さんが言っていたから」、さらに「AIに聞いたらこう言っていましたが」と言う患者も増えているとか。
「でも、あやふやな知識や聞きかじりの情報を基に『この検査、この治療が絶対に必要』と思い込んでいる方とは、コミュニケーションがうまくいきません。医師の側からすると、先入観なしの言わば『白紙』の状態で自覚症状や困り事を語ってくれるのがもっとも診察しやすいんです」
と谷口氏は訴える。
医師とは特権的な存在ではなく、公の人
もちろん、患者が正しい知識を持っているなら、「白紙」の状態以上にコミュニケーションはうまくいく。
「例えば米国のChoosing Wiselyのページで『蕁麻疹』と検索すれば、『ルーチンで血液検査をすべきではない』『大半の蕁麻疹は検査不要』といった正しい情報が出てきます」
だが、現時点で各疾病に関する情報を網羅的にわかりやすく紹介している日本語のウェブサイトはなく、一般人が事前に正確な知識を得るのは難しい。
そこで肝心なのが、米国のChoosing Wisely運動で推奨されている「検査や治療を受ける前に医師に尋ねる5つの質問」(「医師と患者の対話で導き出される『賢明な選択』」参照)を常に念頭に置くことだ。谷口医院をかかりつけ医としている患者には、この5つの質問を明確に意識している人が多いという。
「当院は20年以上前から総合診療を実践し、他院で診察してもらえなかった人や他院で何らかの不平・不満を抱いた人などが数多く訪れていることもあって、特に長く通院されている患者さんはネットの情報に踊らされることなく、医師の言うことも鵜呑みにしない人が多い印象です。大阪という土地柄もあるのでしょう、『そんなん高すぎるわ』『もっと楽な検査、あらへんの?』『その検査受けなかったらどないなんの?』とストレートに聞いてくる方もいます。関東出身の研修医がよく驚いていますね」