政治

Vol. 3

【郵政対談】“裏組織”が推し進めた「郵便局」救済の不都合な真実――グループを熟知する新聞記者二人が「改正郵政民営化法」を語る

2026年7月28日


<span>【郵政対談】“裏組織”が推し進めた「郵便局」救済の不都合な真実――グループを熟知する新聞記者二人が「改正郵政民営化法」を語る</span>

我が国の郵政事業の民営化が決まってから20年が経ち、「改正郵政民営化法」が今国会で成立した。「地域の郵便局ネットワークを維持するために必要だ」という理由で推し進められた今回の法改正だが、その“建前”の裏には、政治力を背景に強大な力を持つ「裏組織」の存在があった――。日本郵政グループと郵便局を日本で最も取材し、表も裏も熟知するのは朝日新聞の藤田知也氏と西日本新聞の宮崎拓朗氏だ。郵政取材の「二大巨頭」として知られる2人が郵政法改正の“不都合な真実”について語り合った。

〈今国会で成立した改正郵政民営化関連法は、全国の郵便局網を維持する費用として国が年650億円規模の交付金を日本郵便に投入することが柱となっている。さらに、政府が一部の株式を保有している日本郵政から、資本的に独立することが計画されていたゆうちょ銀行とかんぽ生命保険だが、2社の株式の3分の1超の保有義務が、日本郵政に当分の間かけられることにもなった。これらが意味することを、2人はどう読み解くか〉

郵政民営化法改正に対する違和感

藤田 今回の郵政法改正の目玉の一つは、やはり650億円の公金投入でしょう。民間企業として経営効率化を急がなければならないときに、補助金を出して危機感を緩め、改革を遅らせかねないような法改正です。どんな根拠をもって支援が必要なのかがはっきり説明されず、「郵便事業の経営が苦しい」「郵便局は大事なインフラだ」という抽象論で押し通された感があります。法改正の目的は何なのか、今もなお不透明なままです。

宮崎 私の所属する西日本新聞は地方ブロック紙ですので、過疎地を取材する機会も多いのですが、郵便局以外にも「地域に必要なお店」はたくさんあって、当然どこも財政支援を前提にした経営ではなく自助努力で運営されています。それに対して、郵便局だけにはあっさりと公金が投じられるというのは、やはり違和感があります。

藤田 「650億円」という規模感も、数字ありきで算出されるものとみられます。日本郵政から政府が受け取る配当金が500億円あまり、また、権利が消滅した旧郵便貯金、いわゆる“消えた郵便貯金”も当面は年100~200億円ほどを使える。これらの国の収入を財源にすると決めたうえで同規模の「必要額」を導こうという発想で、「本当に必要な支援額はいくらか」を厳密に算出したものではない点も疑問を感じます。

宮崎 郵便局の関係者にこれまで取材していると、「民営化前から郵便局には税金が投入されていないんだ」と誇らしげに語る方が少なからずいました。ここに公金が投入されるというのは、独立採算で運営されてきた長い郵政の歴史からみても、大きな転換点になるなと感じます。その割に、国会での議論が深まらないままに成立してしまった点は、やはり疑問が残りますよね。

藤田 政府提出法案ではなく議員立法なので、立法者が国民に対して丁寧に説明する機会が乏しかったのも残念なところです。もう一つの大きな変更点は、日本郵政が、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式の3分の1超を当分の間は保有しなければならないという規定を盛り込んだことでしょう。

宮崎 民営化が決まった当初は、10年間で金融2社は日本郵政から切り離され、完全に民営化されるはずでした。それが2012年の法改正で「10年で」という期限が外れ、さらに今回、むしろ株を一時保有する義務が課された。民営化の計画が大きく後退していることは間違いないです。

藤田 金融2社株の保有義務を加える目的は、「2社の株を手放すと、金融サービスを郵便局で提供し続けられなくなる恐れがあるからだ」と説明されていますが、資本関係がなくなった途端にゆうちょ銀行のサービスが郵便局で提供されなくなるなんてことが、いま本当に危惧されているでしょうか。本当の狙いは、不動産や物流の事業だけでは利益を出しにくいため、配当などの利益も安定的に受け取れる金融2社を手元に残しておきたいということではないでしょうか。

「局長会」という“裏組織”

『郵便局の裏組織 「全特」――権力と支配構造』(光文社/藤田知也著)

藤田 そもそも、法改正に至るプロセス自体に大きな違和感があります。郵政事業にかかわる法改正なのだから、日本郵政の経営陣や郵便局の利用者など、当事者による訴えを受けて発案されるならわかります。それが今回は、現役の郵便局長らでつくる全国郵便局長会(通称「全特」)が要望し、それに応える形で自民党が改正案を練り上げてきました。

宮崎 局長会とは本当に特殊な組織ですよね。全国各地の小規模郵便局の局長1万8千人超から成る大所帯ですが、法人格のない任意団体という位置づけ。所属する局長は、郵便局での「表」の仕事をしながら、業務外で組織内候補の選挙活動など、局長会としての「裏」の仕事もしなければならない。その局長会での評価が事実上、「表」の人事にもつながっているという、なんとも不思議な構造になっています。

藤田 歴史を簡単に振り返っておくと、明治初期に、日本全国で地域の名士が土地や建物を無償提供することによって郵便局網を築いたというのが、小規模郵便局のルーツだとされています。戦後には国家公務員の身分を与えられ、保有する局舎を国側に貸して賃料を得られるようになった。その不動産と地位を世襲で子や孫に引き継ぐため、自営局舎・不転勤・選考任用という、いわゆる「三本柱」と呼ばれる施策が重視されるようになった。局長会はそうした利権にひもづく制度を守るために政治と結びつき、“集票マシーン”としての力を発揮して影響力を保つことで利権を守ってきたと考えられます。郵政民営化に長らく反対していた理由の一つは、そうした制度を脅かす恐れがあったからではないでしょうか。

宮崎 今回の法改正も、いわば自分たちの利権を守るために局長会が要望し、国会でほとんど議論がなされないまま成立してしまったものです。局長会は3年ごとの参院選で1人ずつ組織内候補を自民党から出し、組織立った選挙活動を行ってものすごい数の票を獲得しますから、強い政治力を持ちますし、自ずと政権との関係も近づくことになる。

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