社会

【音声あり】ルフィ事件の裏側、話します。『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』栗田シメイ【記事全文】

2026年7月27日


<span>【音声あり】ルフィ事件の裏側、話します。『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』栗田シメイ【記事全文】</span>

「闇バイト」という言葉の発案者は私です……「ルフィグループ」元最高幹部が明かす組織の実態――“恋愛漫画”を読み“スイーツ”を好む凶悪犯の素顔とは。最高幹部との30回超の面会に200通の手記、「伝説のかけ子」が獄中から寄せた400枚の手紙のやり取り。メンバーの公判や拠点が置かれたフィリピンでの徹底した現地取材を刊行した気鋭のノンフィクションライター栗田シメイ氏と、裁判傍聴を中心に事件記事を執筆する『つけびの村』著者でライターの高橋ユキさんによる生インタビューに新潮QUEのマイクが同席、傍聴。生声の一部始終をお届けする。


この対談は、デイリー新潮の記事でもお読みいただけます。

前編
「大変だったんじゃないですか?」 被害総額60億円「ルフィグループ」元最高幹部の意外すぎる“ねぎらいの言葉”…“恋愛漫画”を読み“スイーツ”を好む凶悪犯の素顔とは
 

後編
「闇バイト」という言葉の発案者は私です…「ルフィグループ」元最高幹部が明かす組織の実態 「50万円で売られてくるホストの女性客」「はした金で手なずけた弁護士」も


“伝説のかけ子”

2022年10月から23年1月にかけて立て続けに発生した、いわゆる「ルフィ広域強盗事件」。組織の幹部がフィリピンの収容所から指示を出し、実行犯が日本各地で凶行に及ぶ異様な手口が衝撃をもたらした。死者を出すに至った凶悪事件の全貌に迫ったのが『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)だ。著者のノンフィクションライター・栗田シメイ氏が、謎のベールに包まれた組織の幹部や、“伝説のかけ子”と呼ばれた女性メンバーへの独占取材の裏側を明かした。
 

【音声あり】栗田シメイ「ルフィ事件の裏側、緊急で話します」

埋め込み

発生当初から事件に強い関心を抱いていたという栗田氏が、本格的に取材へと動き出したのは24年3月のことだった。きっかけは、当時取材していたテレビ局記者からの一言だという。

「犯行グループの中に“伝説のかけ子”を自称する女性がいて、“彼女が小説を書いているから読んでみないか”と言われたんです」(栗田氏の発言。以下「」内同)

その女性こそ、本書の1章、2章の扉を飾る“小説”の書き手、山田李沙受刑者だ。弁護士を介して手紙のやり取りが始まったが、そこには犯罪組織内の人間関係、優劣や敵対心が生々しく綴られていたという。

「事件取材で手に入れた情報って、人間の業がすごく出るものだと思っているんですが、ここまで出ているものはなかなかないなと」

さらに栗田氏は、フィリピンの入管施設であるビクータン収容所のなかで事件を主導したとされる幹部(今村磨人被告、渡辺優樹被告、藤田聖也被告、小島智信被告)のうち、公判が開かれた藤田・小島両被告の裁判員裁判を傍聴。同時に小島被告への直接取材を行い、犯罪の実態から組織内の人間模様までも描き出した。

「無駄な手紙が一通もない」

身柄を拘束されている山田受刑者と小島被告への取材を続けてきた栗田氏。凶悪事件の被告たちへの取材には、事実関係の確認をはじめ様々な苦労が伴ったという。実際、山田受刑者との往復書簡は最終的に400枚を超えた。

「彼女は書きたいことを書くタイプの受刑者だったんです。質問の意図を汲んでくれる時もあれば、そうでない時もある。僕はもともと取材対象者に同じことを何度も聞くんですが、彼女には同じことを5回くらい聞くようにしていました」

彼女はグループのボスとされる渡辺被告に心酔し、逮捕以降も、捜査に非協力的だった時期が長く続いた。「これは大変な仕事になるな、ということは事前に分かっていた」が、その想像をはるかに超える苦労があったと振り返る。

「弁護士の協力がなかったら、途中でやめていたと思います」

対照的だったのが小島智信被告とのやり取りだ。便箋の数は200枚前後で、山田被告と比べて少なめだが「無駄な手紙が一通もない」のだという。本書には、組織の資金管理からPC調達、部屋のレイアウトまで一任されていたという小島被告の実務能力の高さが随所に描かれる。実際に裁判においても、証言の記憶力とディテールの緻密さは際立っていた。

そんな小島被告への拘置所取材で栗田氏が差し入れていたのは、主に甘い食べ物だったという。小島被告のリクエストによるものだった。

「甘いものがすごく好きなんですよね。フィリピンの収容所でも甘いものを食べてたという話を聞いていたのですが、差し入れもスイーツの割合が多かったです」

「ナンバー2だと自分の特性が生きる」

驚かされたと振り返るのが、小島被告の読書傾向だ。“ルフィ”、“三橋”など、組織のメンバーはいわゆる少年漫画的なネーミングを好んだが、小島被告本人が愛読していたのは高校生の恋愛を描く漫画や、女性の内面を描く小説だったという。差し入れた本屋大賞受賞作にも深く共感していたという。

一方でノンフィクションを“ほぼ読んだことがない”と語っていた小島被告に、自宅にある書籍を何冊も差し入れたところ、“刺さった”と絶賛していたのが、水戸の上申書殺人事件の全貌を暴いた『凶悪―ある死刑囚の告発』だった。

「どこが面白かったか尋ねると、原稿の書き方や描写に至るまで非常に細かく感想が返ってくるので、私自身はかなりびっくりしていました。そいうところにも、彼の性格がものすごく出ているな、と」

書籍の感想と同様に、小島被告の細かさを感じさせられたことが別の場面でもあった。

「犯罪の内容を含めて、一見すると物凄く粗野なんですけど、真逆に思えるような感性を持っていて。面会もこれまで50回近くに上りますが、“今日で何回目ですね”と正確に数えている。とにかく細かいんですよ」

小島被告は自身を「ナンバー2の立場だと自分の特性が生きる」「総務のおじさん」と評する。栗田氏も小島被告について、表舞台に立つタイプではなく、組織の縁の下の力持ち的存在だったと見ている。「縦割りの会社だったら、犯罪組織でなくても意外とうまくやっていたかもしれない」というのが率直な感想だ。

そんな小島被告のもとには複数の取材依頼が舞い込んでいたが、なぜ栗田氏を選んだのか。本人には直接確認していないというが、栗田氏はこう推測する。

「新聞やテレビはここまでしか報道しない、逆に雑誌やウェブで報じる記事の内容はもう少し自由度が高い、ということを理解していたと思うんですよね。いろいろ計算したのだと思います」

弁護士への1年越しの粘り強いアプローチも功を奏し、弁護士側から「この人でいいと思うよ」という後押しがあったとも語る。

“事件の全貌解明”ではなく

とはいえ、書籍が完成し、拘置所の小島被告のもとに届いたと知ったとき、栗田氏はいささか身構えたという。家庭環境など、プライベートに深く踏み込んだ内容も多く書いているからだ。

「罪のなすりつけ合いや責任転嫁の部分も全部書いているので、何か言われるかなと思っていた」

しかし苦言が返ってきたのは、家庭環境に関する記述についてのみ。事件の核心部分の描写については“むしろ、大変だったんじゃないですか”と労いの言葉さえあったという。

そんな本書では、フィリピン側の幹部が特殊詐欺組織を構築し拡大させてゆくプロセスや、摘発によってビクータン収容所に移り、“新たな収益”獲得のため広域強盗に乗り出すまでの背景など、フィリピン側の実態が事細かに綴られている。とはいえ、特殊詐欺に関与していた者たちへの取材で困るのが、その証言の取り扱いだ。いわゆる“詐欺師”たちの証言をどう裏取りしたのか。

「かなり大変でしたし、100%できているとは僕自身思っていないんです。というか100%はもう絶対に無理だと」

裁判の証拠調べでさえ、テレグラムの復旧データやエクセルの記録、そして重い口を開いた関係者らの証言が頼りだったという実情がある。栗田氏は取材対象者に同じ質問を何度も繰り返し、他の関係者への丹念な裏取りを重ねながらも、そもそもの執筆の目的を「事件の全貌解明」ではなく「事件の渦中にいた人間が何を考え、どんな心理状態で犯行に及んだかを描くこと」に置いたと明かす。

「だから被告の生い立ちや、フィリピンに渡ってからの動向、末端のかけ子にまつわるエピソードも、本作にはかなり細かく入れています」

600枚超の資料と格闘した校閲作業には、通常より大幅に長いスケジュールが組まれた。「資料を渡されたら、絶対やりたくないと思いますよ」と栗田氏は笑うが、その執念こそが本作のリアリティを支えている。

「50万円で売られてくるホストの女性客」「はした金で手なずけた弁護士」も

特殊詐欺と広域強盗で荒稼ぎした金は、カジノや高級コンドミニアム、連日の豪遊に消えていった――。特殊詐欺や広域強盗の被害者は、物理的にも心理的にも深い傷を負うことを我々はこれまでの報道で見聞きしている。それだけに、本書を読むと、加害者側のあまりに刹那的で享楽的な金の使い方に憤りすら覚える。

日本国内での特殊詐欺の受け子や出し子、広域強盗の実行役も、微々たる“報酬”にありつくことができる。これを目当てに、彼らはSNS上に散見される「闇バイト募集」にコンタクトする。彼らが「闇バイト」に手を染める動機は“借金”が多い。

「犯罪に手を染める時は、もう少し葛藤や段階があるものだと思っていたんです。でも、わずか数十万円の借金がきっかけで闇バイトに応募してしまう人が存在する。しかも、借金の原因は携帯ゲームの課金だったり、ギャンブルだったりする場合がほとんどです」(栗田氏。以下同)

衝撃的なのが、女性メンバーの多くがホストクラブの“売り掛け”が原因でスカウトから組織に売られてくる実態だ。

「女性メンバーの8~9割が、わずか“50万円”でスカウトから権利を買い取られる形で海外に渡っていると聞いた。1000万円の詐欺が成功した場合、掛け子の取り分は5%、つまり50万円。1回成功すればもとが取れる、という彼らなりのロジックなんです」

成功しなければ、接待要員や敵対組織へのスパイ、もしくは「自分の女」にすればいい――。そうした身も蓋もない計算が組織内で行われていたという。

「日本に戻ることは考えていなかったのでは」

携帯ゲームで溜まった借金のため、ホストクラブの売り掛け金のため……。そんな事情で組織に加わった末端構成員の“働き”によって得られた犯罪収益。幹部らはそのカネを湯水のように使っていたという。とはいえ、彼らにしても将来や老後のことを考えればあまりに向う見ずに思えてしまう。詐欺によって巨額のカネを手にした彼らのゴールは、一体、どこにあったのか。そんな疑問を栗田氏にぶつけると、思いがけない答えが返ってきた。

「多分、彼らは日本に戻ることを最初から考えていなかったと思うんです。想像の域を出ないんですが、ルフィグループの主だった幹部はほとんどが北海道出身なんですよね。寒い地域で生まれ育った人間は、温かい土地を好む――。これは犯罪者心理としてあるのではないかと思っていて。犯罪まがいのビジネスで私腹を肥やした半グレが、なぜか石垣島や宮古島に流れ着いて店を始めたりするのと同じ理屈です」

つまり、彼らにとってフィリピンは“逃亡先”ではなく、最初からゴールだったというのである。日本の捜査機関を甘く見ていたこともあり、“捕まる”という意識自体が希薄だったとも栗田氏は言う。

一方で、渡辺被告や小島被告ら上層部は、組織がいつまでも続くとは考えていなかったようだ。渡辺被告は現地の不動産開発案件に、小島被告は日本のレアなスニーカーの転売ビジネスに手を出していた。そんな商売柄か、小島被告は拘置所で面会を続ける栗田氏の“ファッションチェック”にも余念がなかった。

「僕が面会に訪れると、まず全身の服をチェックしてくるんです。“それ、F.C.R.B.でしょ、俺が組織の中で流行らせたんですよ”なんて言ってくる。フィリピンの富裕層向けに、現地の大きな財閥系グループと組んで転売ルートを作り、月500万円は確保していたと話していました」

あえて詐欺や広域強盗に手を染める必要などないのでは……、と思うほどのビジネスセンスだ。現地の富裕層との取引現場は、マニラ屈指の高級エリア「BGC」のショッピングモールで、しかも、地下駐車場にシークレットベースを作っていたというからスケールも大きい。

賄賂と人脈

なぜフィリピンで、これほどまでに大胆な犯罪が可能だったのか。栗田氏自身も取材のため現地入りしているが、そこで痛感したのは「賄賂と人脈がすべてを動かす」現実だったという。

「僕も現地の強いコネクションを持つ仲介者を通じて、官僚や捜査幹部に取材しました。顔とお金で成り立つ世界だと実感しました」

渡辺被告らのグループはタガログ語をまったく話せなかったが、彼に近しい人物が現地に太いパイプを持っていたことで、犯罪がスムーズに進んだと栗田氏は見る。収容所内では中国系・韓国系のグループも当たり前に詐欺を行っており、「詐欺をやるのが当然」という空気が醸成されていたことも大きかったという。

フィリピン取材は危険と隣り合わせでもあった。夜は外出を控え、運転手を付けるなど安全確保に神経を使ったと明かす。

「行ってよかったとは思いますが、正直、リスク管理には細心の注意を払っていました」

23年1月、フィリピン側の幹部らの指示で実行された東京・狛江での強盗事件で、住人の90歳女性がバールによる殴打で命を奪われた。以降、日本国内でも“闇バイト強盗”の残忍さが広く知られることとなった。

この事件をめぐっては実行役だけでなく、フィリピンの幹部4人も逮捕され、組織の実態解明が進められてきた。しかし、彼らは日本の留置場や拘置所に身柄を拘束されながら、外部の関係者と意思疎通を図っていたという。

暗躍する「ハト弁」

「ルフィ」を名乗っていた今村磨人被告が、面会に訪れた弁護士の携帯電話を通じて、フィリピンにいるJPドラゴン幹部と通話していたことは2023年に大きなニュースとなった。この面会時の通話によって、幹部は今村被告に口止めしていた疑いもある。栗田氏が文通や面会取材を続けていた小島智信被告も、“お抱え弁護士”の存在を明かしたという。

「小島被告によれば、組織は何人もの“ハト弁”を抱えていたそうです」

 ハト弁とは、身柄を拘束されている人間に外部から連絡を取る際、“伝書鳩”のように利用される弁護士を指す。

「無理な依頼をする時は50万円、伝言程度なら10万~20万円くらいだと。“若い弁護士はいま稼げないから”と、足元を見るような言葉を聞かされて。嫌な話だなと思いました」

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