高市首相「減税表明」の内幕
高市首相は7月30日、来年4月から2年間に限って、飲食料品の消費税率を1%に引き下げることを表明しました。本来は野党の協力も得た上での実施にこぎつけたかったはずですが、そのために立ち上げた国民会議での議論はまとまらず、結果的に「高市首相の決断」という形をとらざるを得なかったということになります。
私は以前から指摘していたことですが、国民会議で話をまとめるという構想自体に、無理があったと思います。今年2月の解散総選挙で、チームみらいを除く各党が消費税減税を掲げていたといっても、それぞれの減税内容や減税幅には大きな違いがありました。その上で自民党が圧倒的な議席数を獲得してしまったのですから、野党としては自民党と歩調を合わせ、責任を共有する必要は全くないわけです。具体案で折り合えないことは、目に見えていたことでした。
さらに自民党内でも、意見は割れていました。そもそも、総選挙のときの党の公約は「検討を加速する」に留め、減税を見送る選択肢も残していたつもりだったはずが、高市首相個人が「食料品の減税は私の悲願」などと強調したため、国民は減税を「公約した」ものと受け止めた。党と高市首相の思惑にズレが生じた状態のまま総選挙で圧倒的勝利を収めてしまったということです。
その党内の意識のズレは、これまで様々な形で露見してきました。たとえば7月28日、減税の方針を伝えるべく高市首相が麻生太郎副総裁と鈴木俊一幹事長と会談した際のことについて、読売新聞は「意見としては反対だが、首相として決めたのであれば反対はしない」という麻生氏の発言を報じていました。こうしたコメントの出し方は重要な会談の後の麻生氏の常套手段で、こういう結論だったことにしようと麻生氏が狙って出した“声明”です。麻生氏があくまで消費減税には反対だったことを暗に示しています。
小渕優子議員が自民党税制調査会の幹部会合であるインナーを辞任し、消費税減税への反対の意を示したことも、象徴的な出来事でした。その他、河野太郎議員や稲田朋美議員など、反対を表明した大物議員が続出しました。表立って反対はせずとも、「公約に掲げた以上、政治論としては賛成せざるを得ない」という議員は自民党にはかなり多く存在しました。
選挙に弱い若手議員ほど賛成が多く、党税調のメンバーをはじめ、いわば経済や税の理屈を理解している議員ほど、反対が多かった。さらに取材した自民党議員の大部分が「2年後に税率を戻せるわけがない」という考えでは一致していました。1%の状態から8%に戻すということは、かつてないほどの急激な増税ですからね。よほど経済状況が良くなっていれば話は別ですが、なかなか考えづらい。所得連動給付につなぐといっても、対象がかなり狭まります。複数の税調幹部は、「2年後のことは考えないことにしてやるしかない」と嘆いていました。高市首相本人も、市場の反応とアメリカの手前、言わざるを得ないのだと思いますが、そのときがきたら本当に戻せるのか、そもそも首相の座にいるのか、確実なことは言えないと思います。その意味では、無責任な政策と言わざるを得ません。
支持率低下への「焦り」が……
結局議論は混迷し、6月末には結論を出すとしていたところ、高市首相の「減税表明」まで、1か月も遅れることになってしまった。これは内閣支持率にも一定程度の影響を与えたと見るべきでしょう。各メディアの世論調査では、高市政権に求める政策として物価高対策を挙げる人が一番多い状況ですが、それがいつまで経っても決まらない印象を与えてしまっただけでなく、先の国会の終盤は、皇室典範の改正と、維新印の「議員定数削減」「副首都構想」に重点が移ってしまった。これによって国民感情をおろそかにした、期待外れだと感じた層がいたことは間違いありません。
高市首相にはこうした支持率低下に対する「焦り」があったからこそ、消費税減税は、どんな抵抗があってもやらなければならない、むしろ抵抗を押し切っても進める姿を見せたいという方向に向かったと思います。そうした首相の考えが、7月27日の国会閉幕時の記者会見によく表れています。かなりの時間を使って物価対策に取り組んできた実績をアピールしていましたが、会見のポイントは2つ。「何かを成し遂げようとすれば大きな抵抗もある」「反省点は特にない」という発言に集約されます。自分はできる限りのことをやってきた。その中での政策遂行の遅れは「抵抗勢力」が原因なのだから、そこに立ち向かっていく姿を見せることこそが、支持率復活の手段だと考えているわけです。
そのために、自らの言葉によるXでの発信にも注力していますし、あるいは新聞で報じられる「首相動静」についても、「公邸で終日過ごす」という書きぶりに対して、「ただ休んでいるんじゃない。資料を読んだり勉強をしたりしているのに」と、周辺に不満をあらわにしています。もちろん、公邸内の様子を誰も見ることはできませんし、メディア側も他に書きようはないわけですが。いずれにしても、そういうところにまで一つひとつ不満を持つくらい、自身の見え方や支持率には神経を尖らせている状況です。
幹事長・政調会長ポストはどうなる
こうした状況を打破すべく高市首相は、秋までに行われることになる内閣改造と自民党役員人事をどうするか、今まさに頭を悩ませているところです。熊本で大変な災害が起こってしまいましたから、まずはそれにしっかり対応するのが最優先ではありますが、広島・長崎の原爆投下の日や終戦の日を終え、お盆明けに人事に踏み切る可能性が高いとみられます。