<span>松の内が明けた頃から猛烈なロビー活動が――「骨太の方針」をめぐって押し寄せる「提言」の意味</span>
備蓄米放出で族議員から猛抗議を受けた小泉進次郎農水相(当時)

コメの品薄と価格高騰が深刻だった「令和の米騒動」。小泉進次郎農林水産大臣(当時)が事前に諮ることなく「政府の備蓄米を市場に放出する」とメディアに発表したため、古参の農林族を中心に「何事も事前に部会に諮れ!」「ルールを覚えるべきだ」と大臣への猛抗議が起きた。「族議員」とは、省庁別の政策分野について、強い影響力を行使する議員たちのことを指す。衆議院選で小選挙区制が導入されたことで、特定の業界の利益を代表するかつてのような族議員は衰退した、とも言われるが、決して絶滅種ではない。密室で行われる事前審査の仕組みを通じて政策決定過程に深く関与している。自民党「政務調査会」のインサイドレポート(全3回)の最終回をお届けする。

党内議員のほとんどが族議員化することも

 中選挙区制では自民党同士が同じ選挙区内で争うため、政策・票・資金ともに各議員は特化した専門性を有していた。小選挙区選出の議員は、基本的に自民党の全ての各種友好団体と付き合う必要がある。医師会、建設業協会、農業団体、経済団体、教育団体……特定の専門分野より広く薄く様々な業種との付き合いが要求される。業界側も衆院の300近い小選挙区選出の自民党議員宛に陳情を行うため、政策課題によっては、党内議員のほとんどが族議員化することもある。

 今や自民党所属の国会議員は衆参合わせて400人を超える。「骨太方針」原案を議論した7月の政調全体会議では、多くの議員が詰めかけたため資料閲覧用のタブレット端末が不足。発言希望者が相次いだ結果、会議時間も延長した。誰でも参加、発言できる平場の会議では、時折「にわか族議員」として、業界や関係省庁から回ってきた“アンチョコ”ペーパーをもとに発言する者もいるからだ。

 別の事例を挙げると、かつてのTPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉時は地元のJA(農協)から反対要請を受けた議員らが関係会議に大挙して詰めかけた。農林部会長以下若手議員が「TPP反対」「重要5品目の聖域確保」と次々訴える会議は発言希望者が続出することで毎回数時間にわたり、農業団体の力を見せつけた。一方、その農業団体に配慮しながらも、会議の外で政府(当時は安倍政権)との落としどころを探っていたのが、農林族のベテラン議員たちであった。

 近年でも議員の間で役職希望率、参加率ともにトップ3とされる部会は、「国土交通部会」「経済産業部会」「農林部会」であり、関係する業界・団体や地元からの要望が多い分野に議員の関心が高いことがわかる。そこに票とカネが集まるからだ。一方、不人気と言われた「外交部会」「国防部会」や「文部科学部会」への参加率も近年は高まる傾向にあり、外交・安全保障や子育て支援などへの有権者の注目度が高いことや、高市政権の外交・安保政策等へのシフトが影響しているものと思われる。

 さらに昨今は、政調会の中でも調査会や省庁横断型の本部形式の会議を仕切る事務局長を複数こなす若手・中堅クラス議員「事務局長族」「シン事務局長族」の台頭もある。事務局長には会議の日程や進行、省庁との調整などかなりの裁量が与えられており、政策立案の実務能力の高い、将来の幹部候補であることの証しとなっている。事務局長を経て台頭した代表例が、木原誠二元官房副長官、小林鷹之政調会長、村井英樹国会対策委員長などだ。

 また、永田町で近頃見かけるのがスタートアップなどの若手経営者たちだ。髪型やスーツの雰囲気などで従来の業界団体の陳情団とは一線を画す。彼らに多い要望の一つが政調会の会議への出席だという。政策への反映との触れ込みで、部会等に参考人として出席し、自身の事業や経歴をアピールした実績は何らかの箔付けになるようだ。部会長など役員にそういったロビー活動をする企業経営者らを見かけるし、これまでの自民党的業界・団体とは異なる彼らとの交流を深める議員も増えており、議員主催の政治資金パーティーなどでもそういった若手経営者の姿を見かける。これも新たな形の「族議員」と呼べるだろう。

乱立する「79条機関」

 ボトムアップ型の党内コンセンサスを重視する自民党政調会であるが、それとは別に官邸主導のトップダウンで「場」が設けられる時もある。自民党の党則79条には、「総裁は、必要に応じ総務会の議を経て、臨時に特別の機関を設けることができる」との規定がある。それに則し総理兼自民党総裁は、総裁直属機関(79条機関)を政調会の組織とは別に設置し、政権肝入りの政策との触れ込みで党内議論を促進させることがある。アンケート調査に基づく政務三役人事を行った高市総理は、「今夜からは、総裁直轄本部(党則第79条機関)の人事案づくりをスタートします」と誇らしげにXを更新した。こういった79条機関のトップには、政調会長の期数(小林現政調会長は6期)を超える総理経験者や派閥の幹部クラスなどの議員が就任することが多い。新たな人事では、「憲法改正実現本部」(中曽根弘文本部長・参7期)「日本成長戦略本部」(岸田文雄本部長・12期)が継続、「人口戦略本部」(下村博文・10期)「フードテック推進本部」(江藤拓本部長・9期)等が新設された。

 こうした動きは小泉政権から安倍政権にかけて加速し、第2・3次安倍政権下では、集団的自衛権をめぐる議論を進めるための「安全保障法制整備推進本部」や「女性活躍推進本部」「一億総活躍推進本部」など計21もの総裁直属機関が新設された。岸田政権では経済政策を議論する「新しい資本主義実行本部」の他、派閥の裏金問題が発覚したことから「政治刷新本部」が新設されたし、米価対策に追われた石破政権では「食料安全保障強化本部」を立ち上げた。高市政権では「外国人政策本部」等の新設で独自色を打ち出した。

 79条機関の乱立は、官邸主導を強化し事前審査制も含めた党の力を弱体化させた、との指摘もある。政権の重要政策の下請けないしカウンターパートとなる機関が党内に位置付けられ、党の最高意思決定機関である総務会の了承を得ることは、官邸と与党の協力体制を示す一方で、党が官邸を下支えする仕組みを確立しているからだ。

提言作成も官僚のお仕事

 初夏の政治の一大関心事でもある骨太方針だが、その一冊の冊子をめぐり、様々な思惑と利害が激突する。

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