現代のシステムは「砂上の楼閣」、誰にも全体像は見えていない
ソフトウェアは、人が「編み物」を編むように作られてきた。ある程度は自動化され、実績のあるソフトウェアのモジュール(ソフトウェアを機能ごとに分けた部品)が使われているとはいえ、生成AI(人工知能)が登場するまでは基本的に人手の産物だった。人が一目ずつ編んだものである以上、そこには必ず「綻び」がある。そしてその綻びは、サイバー攻撃者の格好の標的となる。
しかも現代のシステムは、多数のIT(情報技術)ベンダー(業者)が提供する複数ソフトウェアの上に成り立っている。商用のミドルウェア(OSとアプリケーションの間に入り、データ処理や通信などを支援するソフトウェア)やライブラリ(プログラミングでよく使う機能をまとめた部品集)、外部のSaaS(クラウド型のソフトウェアサービス)、そしてオープンソース。一つのシステムは、出所を辿るのも困難なほど膨大な数のソフトウェア部品から組み上げられている。
これを可視化しようという理念がSBOM(ソフトウェアを構成する部品の一覧表)だ。だがその理念は立派でも、現実にシステムを把握できる範囲はまだ限られている。自分たちが何を使っているのか、完全には見通せていない。「砂上の楼閣」とまでは言わないが、少なくとも全体像は、誰にも見えていない。これがデジタル社会の現状だ。
そこへ、能力が桁違いである「生成AI」が加わった。
2026年、米Anthropic(アンソロピック)は最上位AIモデル群「Mythos(ミュトス)」を投入した。これは、ソフトウェアの脆弱性を自ら探し出し、その脆弱性を突いて攻撃を成立させるところまで、高度に自動化できる能力を持つAIだ。
この水準のAIモデルにプログラムコードを検査させるだけでも、人手では追い切れなかった脆弱性が相当数、浮かび上がってくる。象徴的なのは、アンソロピックが同じ基盤モデルにバイオ(生物兵器)・サイバー・AI開発の領域で追加の安全対策を施した姉妹モデル「Fable(フェイブル)」を用意したことだ。これは作り手自身がフロンティアAIのサイバー能力を、封じ込めるべき危険物として扱っていることを意味する。
ただし、ミュトスという一つのAIモデルが登場したから世界が変わった、という話ではない。変わったのは、攻撃の「生態系(エコシステム)」そのものだ。エコシステムとは、攻撃に使う道具、それを操る人間、彼らの分業、そして国家間の関係のことだ。
順に見ていこう。まずは「道具」、すなわちAIがサイバー攻撃をどう変えたのかという点からだ。