<span>あと2年で「対外情報庁」を創設できるか――必要性、組織と人材、法的なハードルを整理する</span>
必要なのは言語能力やコミュ力に秀でており、口が堅くて赴任国の知識が豊富な人員だ(C)Tomas Ragina / shutterstock.com

対外情報庁(仮称)の設置までには、越えなくてはならないハードルが複数ある。少なくとも数百人は必要となるはずの人員をどこから供給するのか、どういった指揮系統の下に置くのか。警察庁と外務省の思惑のズレや、実際の任務付与にあたっての法律上の問題点もある。インテリジェンスを専門とする日本大学危機管理学部の小谷賢教授が、「そもそもなぜ必要なのか」という論点も含めて解説する。

狙いはヒューミントの強化

 昨年10月の自民党・日本維新の会の合意文書に、2027年度末までに独立した対外情報庁(仮称)を設置することが政策目標として盛り込まれた。本稿ではこの組織のあり方について、青写真を描いていくものである。

 対外情報庁とは、米国の中央情報庁(CIA)や英国の秘密情報部(MI6)のように、情報オフィサーが海外で人的情報収集(ヒューミント)を行う組織であり、戦後の日本では実現に至らなかった行政機関である。そのため同組織の設置が現政権の政策議題となっているが、そもそもなぜそのような組織が必要なのかについてまず言及しておきたい。

 今年8月に公表された自民党インテリジェンス戦略本部の提言書には、ヒューミントの重要性について以下のように記されている。

「人を通じて相手国の意図の核心に迫るヒューミントは、シギントやオシントでは代替できない独自の価値を持ち、各国情報機関の中核をなしてきた。技術的な情報収集に過度に依存することなく、地域専門知の向上を含むヒューミントにも注力すべきである」

 同提言書内では、シギント(通信傍受)やオシント(公開情報)と同様に、ヒューミント強化の必要性が訴えられている。もちろんヒューミントだけでは得られない情報も多々あるため、シギントやジオイント(地理空間情報)等、技術情報収集手段も必要になってくる。逆に言えば、技術情報だけでは得られない情報もあるので、やはりヒューミントの強化も避けて通れないということだ。

「国家情報局長」人事も知っていた外国の情報オフィサー

 やや遠回りになるが、今年3月に高市政権が国家情報会議・情報局の設置法案を閣議決定すると、日本の同盟国・友好国の報道記者、外交官、そして情報機関の関係者が、次々と筆者の所へ意見交換にやって来た。もちろん彼らは、政権高官や自民党のインテリジェンス戦略本部、各省庁の関係者とも意見交換を行っているだろうが、私のような部外の研究者のところにまでやって来るのには頭が下がる。特に情報関係者は、日本のインテリジェンス改革を注視しており、それに関する情報をできるだけ広く収集しているのだ。

 情報オフィサーというと、「007」のように敵国へ乗り込んで行って、秘密情報収集や破壊工作活動を行っているような印象だが、実際には同盟国や友好国の政治・経済情報収集に携わることも多い。そこで求められるのは、赴任先の言語能力、相手から情報を引き出すためのコミュニケーション能力、赴任国についての地道な研究、そしてセキュリティー意識の高さである。

 もちろん外交官も日々、赴任国での情報収集を行っているが、外交官の場合は赴任国との関係を良好にすることが目的の一つなので、あまり機微な情報収集活動はできない。それに対して対外情報機関は裏で赴任国の機微な情報を収集するのである。つまり外交官であれば堂々と赴任先の政治家や財界人と会い、大所高所の情報を取るということが一般的だが、今回のように日本のインテリジェンス政策に関わる情報収集だと、情報オフィサーの出番となるようだ。

 私のところへ来た外国の情報オフィサーたちは、日本のインテリジェンス・コミュニティの内情についても熟知しており、口を揃えて「初代の国家情報局長は、警察出身で、内閣情報官を務めている原和也氏の続投だろう」と予想し、まさにその通りになった。このように情報オフィサーは、外交官ではなかなか取りに行けない赴任国の機微な情報を日々収集し、分析することが任務となっている。

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