カルチャー

外国人監督を呼べない「円安」を逆手にとれるか 日本サッカー強化へ「輸出」の好循環

2026年9月12日


<span>外国人監督を呼べない「円安」を逆手にとれるか 日本サッカー強化へ「輸出」の好循環</span>
今回の移籍で「母校」にも連帯貢献金が支払われる前田大然選手

次のW杯に向けて、外国人監督の招聘を期待する声が高まっていたものの、それが叶わなかったのは、昨今の著しい「円安」も少なからず影響していると言われる。世界トップの指揮官の契約料、また海外遠征も含めたあらゆる費用がかさみ、JFAの懐を圧迫しているためだ。しかし円安が“輸出”の面で有利に働くのは古くからの定石。ここに日本サッカーが強くなるための活路がある。

円安でかさんだ「W杯」費用

 現在は急速な円高が進んでいるとはいえ、まだまだ歴史的な円安水準にあることに違いはない。トヨタ自動車が2026年3月期連結決算で過去最高となる50兆6849億円の営業収益を計上したことをはじめ、輸出産業は多大な恩恵を受けている反面、輸入に頼るエネルギーや原材料高騰の影響は大きく、国民生活にとってはマイナスの方が多いと言っていい。

 海外との行き来や交流の多いスポーツ界は、どちらかというと後者に該当する。その中でも比較的潤沢な資金力を有すると言われるサッカー界も目下、厳しい状況に直面しているのは間違いない。

 それを如実に示しているのが、日本サッカー協会(JFA)の代表関連事業費だろう。2026年度は先の北中米ワールドカップ(W杯)もあり、83億787万円という巨額予算を計上。ロシアW杯が開催された2018年度の52億6560万円、カタールW杯が開催された2022年度の60億1027万円に比べて、それぞれ30億円、23億円も上回っているのだ。

 2018年は物価の安いロシア、2022年は小国で移動負担の軽いカタール開催ということで、もともとのコスト負担が少なかったという事情はある。だが、円安の影響はやはり無視できない要素。2018年6月は1ドル110円前後、2022年11月は140円前後まで円安が進んではいたものの、2026年6月時点の160円前後の水準に比べれば“大幅な円高”といえる。つまり、2026年北中米W杯は“為替面で一番厳しい時に行われた大会”だったのである。

 日本代表は6月頭から直前合宿地・モンテレイへ移動。そこで1週間の調整を行ったが、当初予定していたティグレスの練習場が悪天候によるピッチコンディションの悪化で使えず、市内から約40キロ離れたCFモンテレイのグラウンドなどに行き来することになった。できる限り万全の体制を整えようとしたJFAスタッフの努力によるものだが、その分選手の移動負担だけでなく、追加の金銭的負担も大きかったはずだ。

 6月8~27日まで拠点を置いたベースキャンプ地・ナッシュビルは素晴らしい環境だった。当時39歳の長友佑都(FC東京)も「自分はW杯に5回行っていますけど、こんなに素晴らしい施設で調整できたのは初めて」と絶賛。完璧に整備された天然芝ピッチに最新鋭のトレーニングルームやメディカルルーム、交代浴の設備、キッチンやレストランなど、至れり尽くせりの対応に心から感謝していた。

 元日本代表キャプテンである宮本恒靖会長ら幹部も「選手たちがベストコンディションを整えるために必要なこと」と判断し、中村俊輔コーチを大会直前に招聘、吉田麻也(LAギャラクシー)や南野拓実(モナコ)を帯同させるという対応も取り、確かに過去にないほど潤沢な陣容で挑んだ。だが、結果的にベスト32でブラジルに1-2で苦杯を喫し、JFAが目指していた「ベスト8以上」という目標には届かなかった。

 JFAの2026年度予算を見ると、代表関連事業収益が54億5750万円で計上されていた一方、日本代表のW杯の賞金は1100万ドル(約17億6000万円)にとどまった。ベスト16入りを想定した代表関連費用が組まれていたことを踏まえると、当初の計画を下回る水準になるかもしれない。「結果が出ないと稼ぎも減る」というのが、勝負の世界の厳しさなのである。円安下で万全の体制を整えようとした分費用がかさんだだけに、JFAの厳しい懐事情がうかがい知れる。

選手育成に海外遠征は不可欠

 円安によるコスト増大はW杯支出にとどまる話ではない。JFAはU-21やU-19など男子の年代別代表活動も定期的に行っているし、女子やフットサル男女、ビーチサッカーなど他の代表活動もある。上記の83億円の中にはそういった活動も含まれているのだが、昨今は「代表活動のお金に余裕がない」といった話もJFA内部から聞こえてくる。

 円安進行によって海外遠征費用が2010年代に比べて大幅に膨れ上がっている以上、そういう嘆きが聞こえてくるのは当然のこと。各代表チームの総務担当は頭を痛めているはずだ。

 だからと言って、選手育成のためには、海外遠征の回数を減らしたり、止めたりすることはできない。一例を挙げると、久保建英(レアル・ソシエダ)、中村敬斗(スタッド・ランス)らがU-17日本代表だった約10年前、指揮を執っていた森山佳郎監督(現仙台)は、あえてインドネシア、インド、ウズベキスタンなど日本に比べて過酷な環境の国に赴き、選手たちを鍛え上げようとした。インドネシアに行けば、スコールで水浸しのピッチでプレーしなければならないし、インドやウズベキスタンなどでは食事が合わずに苦労することもある。そういう中でもタフに戦える人間を育てようと試みたわけだ。結果的にこの時のチームからは久保、中村、菅原由勢(カリアリ)、瀬古歩夢(ルアーブル)という4人が2026年W杯メンバーに上り詰めた。そういう経験は海外に行って初めてできること。やはり島国日本にとって海外遠征を繰り返すことは選手の成長のために必要不可欠なのである。

外国人監督を断念したワケ

 “未来のための投資”は削ることができないからこそ、宮本会長は森保一監督の後任として、外国人監督を抜擢することを断念した部分もあったのではないか。2027年アジアカップ(サウジアラビア)までの森保監督続投、同年3月以降の大岩剛・U-21日本代表監督昇格が正式決定した後の7月24日の記者会見で、宮本会長は「3月の時点で森保監督に『任期は今回のW杯まで』と伝えていた」と明らかにしている。現役時代にフィリップ・トルシエ監督やジーコ監督の下で代表キャプテンを務め、その後ザルツブルクでプレー、引退後にはFIFAマスターで学んだ国際派の会長は、外国人招聘に強くこだわっていた様子だった。

 しかしながら、イングランド代表のトーマス・トゥヘル監督が推定10億円、フランス代表監督を2026年W杯まで務めたディディエ・デシャン監督が同7億円と言われるように、世界トップクラスの指揮官の年俸は高騰の一途を辿っている。円安の影響も相まって、手が届かない存在となってしまった。2億円程度と推察される森保監督のような好条件で来てくれるトップ監督はそうそういないのだ。

 上記の通り、代表関連事業費は限られている。そこから1人の監督とコーチングスタッフに10億円レベルの投資ができるかと言えば、現実的には難しい。仮にドル円レートがかつてのように100円程度だったら、投資額を6~7割程度にとどめられるため、まだ検討対象になったかもしれないが、今後の外為レートがどう変動するかも未知数で、外国人監督との長期契約は不安も大きい。「リーズナブルな日本人で一体感を大事にしながら代表を成長させた方が得策」という結論に落ち着くのも、頷ける話だ。

 逆に言えば、94年アメリカW杯当時の1ドル100円割れ、2011年の1ドル80円前後という水準であれば、日本代表や年代別代表の海外遠征ははるかに行きやすいし、外国人監督も今よりは招聘のハードルが下がる。当時をうらやましく思うサッカー関係者もいるかもしれないが、それが2026年現在の現実。そこから何ができるかを考えていくことが重要なのだ。

円安で膨らむ移籍金は“かつての所属先”にまで還元される

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