連載|カルチャー

Vol. 1

「AI全盛時代に写真こそが面白い」ベンチャーキャピタリスト「佐俣アンリ」が写真アワード「夜明け前」を立ち上げた理由

2026年9月23日


<span>「AI全盛時代に写真こそが面白い」ベンチャーキャピタリスト「佐俣アンリ」が写真アワード「夜明け前」を立ち上げた理由</span>
第1回受賞者(2025年) GC magazine 受賞作《私の恋∞瞬間∞『螺旋』∞》

2024年に創設された写真新人賞「夜明け前」が、いま写真やアートの世界で耳目を集めている。年に一度のペースで写真作品を広く公募し、審査を経てグランプリを決定し、受賞者には賞金および個展開催と写真集刊行の権利が与えられるというもの。初年度から数百件にのぼる作品が集まり、現在は第3回の作品募集中となっている(2026年9月30日まで)。アワードを主催しているのは、写真やアートを扱うメディアでもなければ、カメラメーカーや印刷企業でもない。シード期(創業初期)への投資に特化した独立系ベンチャーキャピタル「ANRI」であり、アワード発起人はその代表パートナーである佐俣アンリである。なぜ彼はビジネスに結びつきそうもない写真という分野に足を踏み入れたのか。(文中敬称略)

写真界の「空白」を埋めたかった

 ベンチャーキャピタル(VC)とは、創業したばかりのスタートアップに資金を供給し、株式を取得して、企業が大きくスケールしたのちに株式を売却することでリターンを得る金融業の一形態。写真表現やカメラ産業とは一見、結びつくところがない。時代の最先端で躍動するビジネスパーソンが、なぜ新たな写真賞を立ち上げたのか。
「直接のきっかけは、写真表現の世界で、新しい人を世に送り出すしくみが失われつつあると知ったことでした」
 

写真新人賞「夜明け前」発起人の佐俣アンリ氏

 
 と、佐俣アンリ本人は語る。たしかに写真表現の現状はその通りで、1990年代から新人写真家の登竜門となってきた『キヤノン写真新世紀』やリクルート主催の『1_WALL』といった公募展が、コロナ禍を契機に終了している。蜷川実花や川内倫子ら世界的に活躍する写真家を輩出してきたアワードが途絶えてしまい、これから写真表現で世に出ようとする世代は、デビューへの道を見出しづらくなっている。
「僕自身が10代のころから写真好きで、『写真新世紀』や『1_WALL』への応募を考えたこともあるほどです。志と才能を持ちながら、世に出るためのルートを見出せず途方に暮れている表現者がたくさんいるだろうことは想像がつきます。しくみがなくなったのなら、空白を嘆いていても始まらない。自分たちの手で新しくつくるしかない、と考えました」
 


 偏愛するジャンルが今後も興隆していくために、みずから手を打ったということである。
 ほかにも大きい理由はある。日々最先端の産業の行方を追いかけ投資先を見極めているゆえ「テクノロジーと未来の専門家」を自認する佐俣の目には、写真というメディアがいま最もスリリングで巨大な地殻変動を迎えているように見えるという。
 どういうことか。佐俣の論をまとめると以下のようなこととなる。

AI全盛のいまこそ写真表現がおもしろい

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