写真界の「空白」を埋めたかった
ベンチャーキャピタル(VC)とは、創業したばかりのスタートアップに資金を供給し、株式を取得して、企業が大きくスケールしたのちに株式を売却することでリターンを得る金融業の一形態。写真表現やカメラ産業とは一見、結びつくところがない。時代の最先端で躍動するビジネスパーソンが、なぜ新たな写真賞を立ち上げたのか。
「直接のきっかけは、写真表現の世界で、新しい人を世に送り出すしくみが失われつつあると知ったことでした」
と、佐俣アンリ本人は語る。たしかに写真表現の現状はその通りで、1990年代から新人写真家の登竜門となってきた『キヤノン写真新世紀』やリクルート主催の『1_WALL』といった公募展が、コロナ禍を契機に終了している。蜷川実花や川内倫子ら世界的に活躍する写真家を輩出してきたアワードが途絶えてしまい、これから写真表現で世に出ようとする世代は、デビューへの道を見出しづらくなっている。
「僕自身が10代のころから写真好きで、『写真新世紀』や『1_WALL』への応募を考えたこともあるほどです。志と才能を持ちながら、世に出るためのルートを見出せず途方に暮れている表現者がたくさんいるだろうことは想像がつきます。しくみがなくなったのなら、空白を嘆いていても始まらない。自分たちの手で新しくつくるしかない、と考えました」
偏愛するジャンルが今後も興隆していくために、みずから手を打ったということである。
ほかにも大きい理由はある。日々最先端の産業の行方を追いかけ投資先を見極めているゆえ「テクノロジーと未来の専門家」を自認する佐俣の目には、写真というメディアがいま最もスリリングで巨大な地殻変動を迎えているように見えるという。
どういうことか。佐俣の論をまとめると以下のようなこととなる。