映画のスチールを担当した写真家の中村治さんが誘ってくれて、10/9(金)から公開になる『遥かな町へ』の試写を見た。『孤独のグルメ』の作画で知られる谷口ジローのマンガの実写化だが、2010年にまずフランスで映画になり、今年ようやく「日本版」ができるという異色の展開である。
原作のフランス語訳も100万部を売ったほか、英語はむろん、ノルウェー語からクロアチア語まで10か国近い欧州の諸語に訳されたというから、かなりすごい(中国語・韓国語訳もある)。逆に日本での映画化はいちど挫折したそうなので、本国より先に「ヨーロッパで評価された」作品と言えそうである。
実際に試写を見終わって、それも不思議と「わかる」気がした。ジャンルとしてはタイムトラベルもので、少年期に戻ればその後の人生を変えられるか、がテーマである。
自分の人生は、自分の「選択」の結果だ――そう捉える発想は、欧州の方が日本よりたぶん強い。だからこそ、そうは単純でないと気づいたときのほろ苦さも、ずっと味わい深いのではないか。
もちろん日本人だって、コンビニで選んだ食事がハズレで「あっちにしておけば!」くらいのことは、よくある(連載前回)。だがその程度なら、翌朝にはみんな忘れる。
「あの子に告白しておけば」といった青春時代の後悔も、多くの人が持っていそうだ。でも現にできなかったくらいだから、告ったとしてもフラれただけで、いまと変わらないのかもしれない。ほとんどの人は、そんな風に納得させて、悩める自己に蓋をしてゆく。
あのとき下した決定が「運命を変えた」と呼べるほどの、大きな選択に直面する機会は、政治家でもビジネスマンでも最上層の限られた人にしか、そもそも巡ってはこない。日本人はむしろ、そう諦めていくことの方が「人生の達人」になるコツだと、色んなメディアで刷り込まれて育ちがちだ。
そんな目で今回の映画を眺めると、「はっ」と気づかされることが多い。
発作的に故郷(鳥取県倉吉市)を訪れ、中学生時代にタイムスリップする主人公は、48歳の建築デザイナー。海外にもクライエントがおり外国語に堪能で、東京の自宅の装飾から見ても、相当「成功した人」なことはまちがいない(奥さん役が橋本マナミさんなのも、それを強調するためだろう)。
14歳に戻っても大人としての記憶と、身につけた英語力は健在なので、高嶺の花だったはずの学校一の美少女とつきあえてしまう。リア充そのものである。だが主人公には、時空を越える前後を通じた、生涯の悩みがある。
彼はまさにその年の夏、父親をなんの前触れもない蒸発によって失い、母親は苦しみの中で主人公を育てた。だから彼は蒸発前の父を尾行して、失踪の謎を解こうとするとともに、なんとか出奔を阻止しようと試みる。