2026年9月、イエメン情勢が急変した。複雑な現地情勢は、地域的な背景とも結びついている。安易で短絡的な理解は、長期的な見通しを欠いた政策判断にもつながりかねない。それをふまえ、本稿では、より大局的な視点からイエメン情勢をとらえる試みを行う。
湾岸諸国がイランへの反撃を控える理由
2023年10月以降のガザ危機に加えて、2026年2月のアメリカ・イスラエル対イラン戦争の勃発により、中東は混迷の度を深めた。この期間には、2011年の「アラブの春」以降、内戦状態に陥っていた二つの国、シリアとイエメンでも、情勢に大きな変化が生じた。もちろん、その他の諸国にも様々な波及効果が及んでいる。
イスラエルは、ガザに苛烈な軍事侵攻を仕掛けてハマスを追い詰めるとともに、レバノンのヒズボラを執拗に攻撃した。2024年12月のアサド政権崩壊後のシリアでは、混乱に乗じて、ゴラン高原周辺の占領地域をシリア領内へと拡大させた。イエメンのアンサルアッラー(通称、フーシー派)によるサナア実効支配政権とも軍事的に対峙した。その流れの中で、アメリカを巻き込み、2025年にはイランとの間で「12日間戦争」を行った。さらに2026年には、アメリカを前面に立たせ、イラン最高指導者アリ・ハメネイ師の暗殺に端を発する対イラン戦争を始めた。
これは、イスラエルとイランの敵対関係を基軸とする中東地域政治の構図である。イスラエルは、アメリカの後ろ盾を活用しながら、アラブ諸国内にアブラハム合意派の陣営を築こうとしている。これに対峙するのが、イランを中心に形成されているとされる「抵抗の枢軸」であり、ハマス、ヒズボラ、アンサルアッラーは、同陣営に属するとみなされている。
この構図の中で埋没するのは、イスラエルにもイランにも従うことのできない中間的な中東諸国だ。イスラエルに非常に近いUAE(アラブ首長国連邦)から、イランと良好な関係を持つイラクに至るまで、立場に様々な温度差を持つ中間派の諸国が存在する。その代表格はサウジアラビアだ。しかし中間派には、他に有力な国が少ない。北アフリカにエジプトが存在することが重要である、という程度だろう。そこでサウジアラビアは、アラブ圏外のパキスタン及びトルコとの間で安全保障協定を結ぶことにした。