過去の市長選分析から見えるもの
「わが日の本は島国よ 朝日かがよう海に 連りそばだつ島々なれば あらゆる国より舟こそ通え されば港の数多かれど この横浜にまさるあらめや」
横浜市歌の一節である。我が国に港は数あれど、この横浜にまさる場所はない、という意味だ。森鴎外が作詞したこの歌は、市立小・中学校で歌い継がれており、歌えない横浜市民はいないと言われるほど広く親しまれている。筆者は中学・高校時代、東京から横浜に通学していたが、そんな「外様」の人間でさえ、この歌に接する場面は度々あった。世界に開かれた「港町ヨコハマ」への誇り、いわばシビックプライドを象徴する歌である。
横浜市長選を読み解く上でも、横浜市民のシビックプライドは見逃せない。かつて市長選の最重要争点だったIR(カジノを含む統合型リゾート)の誘致を巡る論争は、その典型だった。筆者の経営するJX通信社と神奈川新聞社が横浜市民を対象に2019年9月に行った調査では、IR誘致に反対するとした人が約64%に上った。
ポイントはその理由である。
最も多かったのは、治安の悪化やギャンブル依存症への懸念などではなく「カジノが横浜のイメージにそぐわないから」。具体的なリスク以上に、横浜という街のイメージへの負の影響を重視する意見が最も多かったわけだ。IR誘致は、既に認可が下りて事業者も決まった大阪をはじめ、地元住民の反対に直面しやすいが、街のイメージへの影響が反対理由になっていることは珍しい。
そうした市民の懸念をよそに、林文子市長(当時)は任期終盤、IR誘致に邁進したことで、後に強烈なNOを突きつけられることとなる。2021年、林氏は4選を目指して市長選に立候補したが、得票は約19万6926票と次点にも大差をつけられ、惨敗した。その時の選挙で「IR誘致ストップ」を掲げて当選したのが、山中竹春前市長である。得票は林氏の約2.6倍にあたる50万6392票に上った。横浜市のIR誘致はこうして頓挫した。