<span>オハイオ、テキサス、そしてニューヨーク――2026年アメリカ中間選挙が映し出す「右と左」から「上と下」への転換 </span>
Frame Stock Footage / shutterstock.com

11月3日に行われるアメリカの中間選挙の行方に、世界中が注目している。しかし、中間選挙がこれほどの熱を帯びるようになったのは、意外にもここ10年ほどの現象だという。2018年、22年と投票率が50%を超えた背景には、トランプ現象がもたらした政治的分断と有権者の動員が大きく影響している。 2026年の中間選挙で大きな争点の一つとなっているのは、物価高・生活費・住宅といった「アフォーダビリティ(生活のしやすさ)」だが、選挙区ごとに見れば、その背後には宗教、人種、世代、テクノロジーなど、社会の断層が複雑に折り重なっている。 神戸大学教授で『アメリカの新右翼 トランプを生み出した思想家たち』(新潮選書)などの著作がある井上弘貴氏と、立教大学教授で『福音派 終末論に引き裂かれるアメリカ社会』(中公新書)などの著書がある加藤喜之氏が、政治思想と宗教という二つの視座から、2026年中間選挙を占う上でヒントになる「3つの地域」を解説する。

※本稿は新潮QUEによる対談動画【「右か左か」ではなく「上か下か」 中間選挙にみる、アメリカ政界の新たな局面を読み解く】の一部を抜粋し、構成したものです。

中間選挙を「トランプ選挙」にしようとする戦略

――まずは11月3日の投票日が近づく中、今回の中間選挙の情勢について二人はこう語る。

井上氏:
 現在、下院では民主党が多数派を奪還するのではないかという見方が強まっています。上院も、これまでは“五分五分”との見方が多かったのですが、最近では“民主党が多数派を占める可能性が高まってきた”という報道が出始めているところです。争点として挙がるのは、やはり物価対策でしょう。特にガソリンを含む生活費の問題への関心の高さが、世論調査の結果から窺えます。

加藤氏:
 これまで、中間選挙はあまり注目されず、投票率が40%台にとどまることも珍しくありませんでした。しかし、2018年、2022年の中間選挙は投票率が50%超となりました。そこにはドナルド・トランプ大統領の狙いがあります。

 9月にはテキサス州ダラスで史上初めて、共和党が中間選挙のための党大会を開きました。そこでトランプ氏は、「投票用紙に私の名前が書いてあるつもりで投票に行け」という趣旨で訴えかけた。反トランプの民主党系の有権者の熱量が高まる中、MAGA派の忠誠心を頼みに、普段なら中間選挙の投票に行かない層まで動員しようという戦略です。

 実際に、キリスト教福音派系のロビー団体「Faith &Freedom Coalition」が有権者3200万人に働きかけるなど、宗教票の組織動員も本格化しています。一方、共和党候補者の多くが9月の党大会を欠席したという事実も見逃せません。イラン戦争に反対する共和党員が増えるなか、候補者たちはトランプ大統領との距離感を測り始めているのです。

 物価高を正面の争点にすると、これまで政権を担ってきた共和党が責任を問われます。そのため、経済政策よりも文化戦争的な枠組みで戦おうとしています。たとえば、テキサス州では民主党候補のジェームズ・タラリコ氏に対して、キリスト教をめぐる過去の発言を取り上げて攻撃し、ミシガン州では民主党候補のアブドゥル・エルサイード氏について、ムスリムという宗教的アイデンティティを強調した攻撃を展開しています。アフォーダビリティでは正面から戦いにくいのです。

「ヴァンスのお膝元」で問われる「労働者の党」というイメージの復活

――それでは、今回の中間選挙の注目選挙区はどこなのか。まず名前が挙がったのがオハイオ州。J・D・ヴァンス副大統領が上院議員として就いていた議席をめぐり、民主・共和両党が激突する選挙区だ。

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