<span>本番は毎年11月から 3週間で税制改正を仕上げる「税調インナー」密室の解剖</span>

増税にしろ、減税にしろ、新税にしろ、それが決まるまでには政官財の思惑が複雑に交差するものだ。税制の基本原則である「公平・中立・簡素」に沿って、選挙の勝敗や一過性の世論に左右されない「税の論理」に裏打ちされた検討を行い、その税があるべき姿に着地するよう強い影響力を発揮するのが自民党税制調査会(税調)である。第二次高市改造内閣で発足した新税調は、消費減税と財源探しという重い課題を課せられた。政務調査会の一機関でありながら内実が知られていない「税の最高機関」のパワーレポート(全2回)の第1回をお届けする。(敬称略)

酒税バトルと「税の品格」

 税にも品格がある、と聞いたらあなたはどう思うだろうか。

 例えば、10月1日から統一されたビール類の税率一本化。これまでバラバラだったビール(高税率)と発泡酒など(低税率)の税率格差を縮めるため、国は数度にわたって「ビール以外」の税制改正(増税)を行い、メーカーはそれをすり抜ける新商品を開発するいたちごっこが続いてきた。税率一本化により、30年超にわたる大蔵省(財務省)vs.ビールメーカーの攻防戦に終止符が打たれたことになる。

 節税を目的とした発泡酒のデビューは、1994年に遡る。サントリーが開発した「ホップス」だ。当時の酒税法では「麦芽比率67%以上がビール」との定義で、ビールには高い税率が課されていた(1キロリットル当たり22万2000円)。ホップスは麦芽税率を65%に抑えることで、酒税法上「ビール」ではなく「発泡酒」の扱いとなり、低い税率が適用される(1キロリットル当たり15万2700円)。この税額差を利用し、通常のビール(350ミリリットル缶)が220円前後のところホップスは180円で発売、爆発的なヒット商品となった。

 背景には、スーパー最大手のダイエーによる直輸入ビールの販売(ディスカウントストアより割安の120円台での販売)が業界内外に与えた衝撃があった。その頃は規制緩和の流れで量販店が酒販に参入したばかり。バブル崩壊後の節約志向と円高基調もあり、ビール市場で価格破壊が起こる中、サントリーは酒税法の隙間をつく戦略をとったのだった。

 このとき、酒類業の産業行政を担う当時の国税庁の酒税課は、「酒税法に抵触するとは言えず、マーケットの急変に対応したビールメーカーの企業努力」との認識で容認したという。ただし、消費者が価格の高いビールから安い発泡酒に流れれば、酒税の減収が懸念される。そのため、税法を所管し、国の税収に責任を負う大蔵省主税局の担当者は、ホップスの販売は法律に抵触していると言えないことは認めつつも、「税率の隙間を利用したやや品の悪い対応」と捉えたようだ。

 税制の基本原則である「公平・中立・簡素」。だから先のビール類の酒税も「品のある」税制改正となった、と関係者は胸を張る。ただし、税には歴史や業界・団体の思惑も絡みあう。極めて政治的な課題だ。税制が改正されれば民間企業の戦略や業績、消費者に近い市場にも影響が及ぶ。実際、税率の統一により、ビール市場では、ビールに“格上げ”した新商品の開発、異業種の参入など製法の見直しや販促強化で、また熱い競争が始まっている。

 税制に強い影響力をもつのが自民党税制調査会(税調)だ。政務調査会の一機関でありつつ、税制の仕組みや税率の変更(増税・減税・新税導入など)について極めて強い権限を持っている。時の政権や業界からの働きかけ、世論のポピュリズムをはねのける最後の砦とされた税調は、内外の経済状況や国の財政状況等を睨みながら税のあるべき姿を決定する。そこには選挙の勝敗や一過性の世論に左右されない「税の論理」と「政治家としての矜持」に裏付けされた圧倒的な権威が存在していた。

反対派を3日で逆転、消費減税をめぐる党内抗争

 高市早苗総理も税制と品格のバランスを重視するようだ。総理就任数カ月前の2025年5月、税調の勉強会にて「国の品格として食料品の消費税率は0%にするべき」と主張している。筆者にはなぜ消費税ゼロが国の品格と結びつくのか理解が及ばないが、今国会の最大の焦点となっている食料品の消費減税についての強い拘りは感じ取れる。

 日本で初めて消費税が導入されたのは1989年。以来、責任政党の名のもとに消費税の減税議論とは一線を画してきた自民党にとって、安倍政権時代に増税延期は2度実施したものの、消費減税は党史上初めてのことだ。

 その消費減税を認めるための税調の手続きのピークは真夏の最中だった。7月31日の税調幹部会会議では、高市総理が掲げた飲食料品の消費税率を2年間1%にする方針に対し、約6割から反対・慎重論が噴出した。

 しかし、その3日後の税制調査会・社会保障制度調査会合同会議では、75人の発言中、8割超が減税賛成の意見表明だったという。背景には、「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の呼びかけによる会議出席依頼文書があった。「8/3(月)13:00 出席と発言のお願い」というタイトルで「次の会議は食料品の消費税減税を実現するために極めて重要な局面。必ずご出席いただき、賛成の立場からご発言いただきますよう何卒、よろしくお願いいたします」と記載された文書が同議連所属議員に配布された結果、高市チルドレンなる若手議員の発言が相次いだのだ。

 税制調査会は平場の議論として自民党所属議員であれば誰でも出席と発言が可能だ。消費減税賛同の発言を重ねた若手議員たちに対し、昨年まで税調会長を通算8年務めた宮沢洋一参議院議員は「彼らが『約束通り戻さないといけない』と発言すれば戻せるだろう」と突き放した言い方(日経新聞2026/9/8)で、税の議論への覚悟を問う。その宮沢他9名が、党の最終的な意思決定手続きであった8月5日の総務会を欠席して、減税への反対姿勢を示した。

 はたして2026年現在、税調の権威や伝統は失われたのか。

「税制改正大綱」を書くのは誰か

 税調は、会長を筆頭に小委員長1名、小委員長代理1名、それに20名程の副会長と十数名の幹事が役員とされ、さらに税調会長経験者が顧問や最高顧問の名目で加わる。これらの役員による会議が幹部会と呼ばれ、それ以外の自民党所属議員であれば誰でも参加可能な平場の会議とともに、両者が並行して開催する運営となっている。さらに少人数による実質的な最高意思決定機関として、「税調インナー」(非公開)と呼ばれる最高幹部の会議体が存在する。通常8~10名程度のメンバーで構成され、会長、小委員長、小委員長代理に加え、副会長・幹事の中から会長により選任される。内閣改造・党役員人事の際に、新たに就任・再任した税調会長が誰をインナーメンバーとして招聘するか。党内に限らず霞ヶ関や業界・団体、マスコミ等が最も欲しがる情報の一つだ。

 インナーは税の専門集団のように言われるが、必ずしも財務省出身者がインナーになるわけではない。宮沢洋一元税調会長や小委員長代理を務める後藤茂之は財務省出身であるが、同じく財務官僚であった片山さつき財務大臣はインナー経験者ではない。

 元来、インナーメンバーも派閥の枠組みからベテラン議員が選出されることが多かった。そもそも中選挙区時代から自民党の派閥には独自に業界・団体とのつながりや族議員的な色合いがあり、インナーを各派閥選出の人材で組織することで、大抵の自民党の友好関係団体とのつながりを網羅することとなる。インナーメンバーには、各業界・団体からの要望に応えると同時に、要望に沿えない場合に彼らを説得する役割もあるからだ。例えば、高市内閣以前のインナーメンバーを見ても、産業界に強い甘利明、電力・エネルギー政策の第一人者である額賀福志郎、農業関係は森山裕、厚生労働関係は加藤勝信や後藤茂之など、税の知識のみならず各業界に対してモノ言える議員が居並ぶ。さらに財務省出身者に加え、総務省(旧自治省)出身者や地方自治体の首長経験者もインナーメンバーに選出され、地方税に関する知見を活かす。税調会長の権限は極めて大きいが、いわゆる族議員の代表でもあるインナー議員に改正の判断や関係者との交渉を委ねる場面も多い。

 年末に閣議決定される翌年度税制改正に向けた指針を示す「税制改正大綱」を取りまとめるのが最終的な税調の仕事である。それに向けて小委員長や小委員長代理等が各会議での司会を務める。俗称に過ぎないインナーの実態が明らかでないゆえか、ナンバー2である小委員長等が税制改正大綱の「書き手」と称されることがあるが、議員が実際に大綱の文言を一から書くことはない。大綱の原案はもちろんのこと、スケジュール調整から会議用の資料、司会原稿も含め、財務・総務の両省が組織を挙げて緻密に準備する。

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