苦悶の税調会長を支えるメンバーは
年末の税制改正に向け、内閣改造後の新税調が始動する。「季節労働者」の仕事開始だ。
小野寺五典税制調査会長が続投し、辞任した小渕優子と入閣した井林辰憲国土交通大臣に代わり新たなインナーメンバーとして、旧岸田派の古賀篤(衆6期)と旧二階派の松本洋平前文部科学大臣(衆7期)が補充された。古賀が財務省出身である一方、松本は消費減税に反対した古川禎久に代わり、幹事長代理に就いた流れからの人事でもある。松本の参入は、インナーに在籍する旧安倍派の西村康稔を意識した萩生田光一が、子飼いである松本を入れることで牽制するとともに、かねてから東京都知事の小池百合子が反対する税収偏在是正措置導入を意識した東京勢の補強ではないかとの推測が流れている。一方、小委員長などを歴任した林芳正は、インナーメンバーから外れた。
ところで、小野寺と言えば「笑わない」政治家である。消費税減税を議論する超党派の国民会議の議長として、あるいは税調会長として党内議論を取りまとめる中で、しばしば苦悶する表情がメディアでも流れた。その常に険しい表情は、彼の経歴によってつちかわれた部分もあるようだ。自身の2度の防衛大臣時代も含め、わが国の有事・危機に備え、また国防の現場での不測の事態に備え、にこやかな笑顔や冗談を厳しく自制したという。
一方、その小野寺を支える小委員長代理と政調会長代理の職にとどまった後藤茂之は、財務省出身の自他ともに認める税制通であるが、小野寺とは真逆に「笑いのたえない」キャラクターだ。厚生労働大臣時代、コロナ対応等で会見頻度も高かったが、「僕、厳しい局面で真面目な顔をしているのですが、笑っているって怒られるんですよね」と冗談交じりに語っていた。
小野寺、後藤はじめ継続性が重視された形で始動する新税調は、消費減税、さらには財源探しという重い担務を背負って各党協議を進めることになる。
業界の腕の見せ所・ロビー活動
毎年8月末日、各府省庁は財務省に来年度税制改正に向けた要望項目を提出する。
今年も令和9年度税制改正に向けて、総計208項目の要望が出そろった。複数の省庁による重複案件が多いため、実質の要望項目は124件となる。一方、消費減税の財源捻出の面からも日本版DOGE(租税特別措置・補助金見直し担当室)を通じて税制の優遇措置の見直しを図ったが、廃止・縮減項目は4件に留まった。この要望項目をベースとした来年度税制改正に向け、関係者の動きは加速する。
税制は人々の暮らしに関わるのみならず、時に市場やビジネスの勢力図を変化させる。政府の政策のトレンドを窺い、成長分野への投資の加速、激変緩和への防御策など、新たな税制改正は各業界や企業にとって将来のビジネスモデルを占う指標ともなる。
党税調での検討状況を見据え、要望を提出した各省庁と業界・団体は車の両輪となって協力し合いながら、税調役員への要望活動に勤しむ。要望団のロビー活動では、業界に所属する企業がライバルの垣根を超えて団結し、業界のPRを兼ねながら役割分担をして組織的な要望活動を展開する。中でも最大の団体である自動車業界は、メーカーから販売、流通、整備など12の関係団体が一堂に会し、議員への要望会を開催した上で、個別の議員への働き掛けも組織的に行っている。会食を通じた接待攻勢や決起集会を開催してその政治的存在感をアピールする業界・団体も多い。
消費者の購買行動に直結する酒税、中でも酒税同率を達成したビール酒造組合と飲料メーカーの面々はお揃いのビール柄のネクタイで要望活動を行い、ビール愛好家議員へのアピールを欠かさない。日頃は権力監視の役割を自任する新聞社も、新聞への消費税軽減税率適用を求めた際には、日本新聞協会が音頭をとり、各地方紙の社長らが地元選出の議員を訪ね議員会館を廻った。
税調会長やインナーメンバーともなれば、受ける要望の数はおびただしく、一連の税調会議が始まる前の早朝や、夜間に要望を聞くこともある。それでも過密なスケジュールから時間が取れず、面会を断る場合もある。いかに税調会長をはじめとするインナーメンバーに直接自分たちの要望を伝えられるか。各業界や企業の渉外担当者はそれまでの議員や議員秘書とのつながりを背景に、自社のトップや幹部の面会を実現すべく奔走する。議員の中には派閥や自身のネットワークを生かして地元の首長や関係団体に要望の場を設けるべく動き回り、恩を売る者もいる。
業界の裏で糸を引く各省庁は、政務調査会の役員や族議員はもちろんのこと、自省の政策に友好的な発言をする議員を日頃からチェックした上で、税調会議での発言を依頼する。発言メモをゲリラ作戦のようにばら撒く担当課もあれば、個人的なスタンドプレーでインナー議員に直接アプローチしたところ、上司と鉢合わせをして気まずい雰囲気になった事例もある。いずれにしても、税制改正の決着を見るまで、この時期の霞ヶ関は不夜城と化すのである。
明暗が分かれる〇×審議
12月に入ると議論の取りまとめに向け、〇×審議に入る。国税・地方税をあわせた数百件の次年度税制改正要望項目ごとに受け入れの可否を確認する作業だ。要望項目は、政調会の各部会ごとの要望をベースに一覧化されており、毎年数十ページに亘る。「エコカー減税の延長・見直し」とか「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等に係る措置」、「交際費の課税の特例(中小法人における損金算入の特例)措置の延長」等、国民の暮らしや企業経営に直結するものも数多い。
かつてはページ数のかさばる分厚い冊子を電話帳と呼んでおり、その項目数も千単位に及んだというが、現在はタブレット端末による閲覧だ。その項目の頭に、〇や×、△といった改正受け入れの可否が付記されており、1ページずつめくりながら、財務省と総務省の担当課長が「これは△です」「マル政でお願いします」などと一つずつ査定結果を披露する。△は「検討し、後日報告する」、マル政は「政策的課題として検討する」という意味だ。1ページ分の報告が終わるごとに、司会から発言が求められ、「3番はどうしても実現させてください」「7番はこういう理由で是非お願いしたい」等と議員たちが発言を競い合う。税調で支援団体や業界を応援する発言を会議室の外に聞こえるような大きな声で述べることは、関係者への大きなアピールとなるため、なかには「航空機燃料税の特例措置の延長を強く求めます‼ 聞こえていますか、廊下にいるJAL、ANAの皆さん!」などと“品のない”発言をする議員までいる。また、事前にその項目を担当する省庁が「この項目のところで、このようなご発言をお願いします」などと議員に根回しするため、発言要旨なる事前に配られたメモをそのまま読み上げている議員も見られるし、〇×審議前には部会勉強会を開催し、発言の割り振りや役割分担を周到に準備する面々もいる。挙手がなかなか止まないわけである。
マル政項目については別途議論する日が設けられるため、議員が発言を行うのは、主に△(検討し、後日報告する)印についてだ。×印を復活させることは難しいが、△については会議での発言をもとに〇に切り替わる可能性が高い。中には各省庁や業界・団体の支援をバックに税調での議員の賛否が拮抗する案件もあり、発言数で採択が決まることもある。
例えば、ゴルフ場利用税。1人800円程度のプレー料金に課された課税収入の内、70%は市町村の税収となる。この財源を死守するために、ゴルフ場を多く抱える自治体の首長は、総務省とともに議員に利用税継続への賛同を要請する。一方、ゴルフ振興の立場からプレー料金の値下げを望むスポーツ団体の要望を受けた主に文教族の議員たちは利用税の廃止を要請する。首長の議員への要請活動の成果か、2026年現在、ゴルフ場利用税は存続している。
また、能楽堂の固定資産税を軽減する特例措置の適用期限が迫った4年前には、文化庁による根回しが行きわたった結果か、この年当選したばかりの女優でもある生稲晃子参議院議員など出席議員から次々と延長や恒久化を求める意見が上がった。特例の見直しも視野に入れていた財務省主税局は「まさかこれ程延長要請が出るとは」と驚きを隠さず、2年間の適用期限の延長が決まった。
もちろん「政治はお芝居だ」と称されるごとく、事前に財務当局やインナー会議で練られた想定通りに進むものがほとんどではある。