船橋で革命を見た
革命と言えば、1789年のフランス革命だ。
その本質とは身分制の崩壊だ。身分制がなくなり、国家の主権は国王から国民に移った。革命の本質とは「主権の交代」なのである。
現在進行している“クレーンゲームの革命”でも同様のことが起こっている。革命以前、クレーンゲームにおける景品(プライズ)の王様はぬいぐるみと決まっていた。プライズの世界では、ぬいぐるみが主権を持っていた。ところが今や、プライズとして食品の存在感が高まりつつある。今、クレーンゲームという遊技の王国で主権を握ろうとしているのは冷凍ステーキ肉であり、メロン、シャインマスカットといった果物だ。鶏卵、野菜など他の生鮮食品、加えてカレールー、レトルト食品、飲料といった食品類、さらにはトイレットペーパーなどの日用品も参加している。食品、日用品といったプライズが勃興してきた。
わたしはクレーンゲームの革命を体験するため現場へ出かけていった。革命の現場は京成本線、船橋競馬場駅に近いコーナン船橋花輪インター店の一階にある「クレーン横丁 極(きわみ) コーナン船橋花輪インター店」(千葉県)だ。
クレーン横丁極は「クレーンゲームの“極み”を追求するプライズゲーム専門店」で、「店内に広がるバリエーション豊かなプライズゲームの街があなたを待っています」とうたわれている。そこはクレーンゲームが並ぶ街だった。パチンコ・スロット店のように広い店内には400台近いクレーンゲームが並んでいた。人々はゲームに興じていた。パチンコ・スロット店のような大きな音はしない。革命は静かに進行していたのである。
念のために説明しておく。
クレーンゲームとは透明なアクリルなどの筐体(きょうたい)のなかに入っているさまざまなプライズを取るゲームである。筐体の天井にはクレーンが付いており、プレーヤーがコインを投入すると、ボタンやジョイスティックでクレーンを操作することができる。クレーンは前後および左右には操作できる。だが、上下移動は自動だ。プライズを取ることができることもあれば取れないこともある。
クレーンゲームはゲームセンター、スーパーマーケット、レストラン、映画館などさまざまな場所に設置されている。なかでもリサイクルショップに併設されたそれは「倉庫系」と呼ばれる。利用者からすると、倉庫系と通常のクレーンゲーム店との違いは主に営業時間だ。
クレーン横丁極のような通常店は風営法に基づいて運営しているので、営業時間は早朝から夜中の12時までの範囲内である。一方、倉庫系のなかには24時間営業を行っている店もある。
人気のプライズと背後からの圧
クレーン横丁極に突入したものの、わたしはすぐにプレーはしなかった。店内を見て回り、プレーの様子をじっくりと見学した。慌ててプレーすればコインを失うだけと自覚していたからだ。
土曜日の午後だったこともあって、来店客の9割は家族連れだった。同店はホームセンター、コーナンの一角にある。客は日用品、DIY用品、園芸用品、ペット用品などを買い物したついでにクレーン横丁極で遊ぼうと思ったのだろう。
クレーン横丁極の店内を歩いていたら、行列に出くわした。何を取ろうとする列なのかと、のぞいてみたら、プライズはメロンだった。網目の入ったアンデスメロンと思われるものだ。マスクメロンではない。マスクメロンなら数千円はする。クレーンゲームではプライズの仕入れ価格は千円までと決まっている。そうすると、アンデスメロンしかない。わたしはそう推測した。
よく見ると、アームでプライズを掴むタイプではなく、クレーンの先端に付いているリングを、板に取り付けられたフックに引っかけて、プライズを下に落とすタイプのゲームだった。プレーヤーの中年の中肉中背のおじさんはメロンを取るために格闘していた。格闘と言ってもボタンを押すだけなのだが、身体から気迫が出ていた。彼の視線はアクリル筐体のなかにあるメロンに突き刺さっていた。メロンを見据えながら、力強くボタンを押した。しかし、上から降りてきたクレーンの先にあるリングは、メロンが載った板に付いたフックに引っかかることはなかった。
リングをうまくフックに引っかければ板が傾いて、メロンが下に落ちる。おじさんプレーヤーはその後2回チャレンジしたが、後ろに人がいることもあって、そこでギブアップした。
見ていると、まったく取れない様子ではなかった。あと数回試せばメロンを手中にできそうだったのに、おじさんプレーヤーは後ろに並んでいたお母さんと子どもに忖度したのだろう。ずっと背後を気にしながらプレーしていた。彼はお母さんが放った「早くやめろ」という圧に負けたのだと思われる。ゲームに負けたというより、投了したのだった。
様子を見ていてわかったことがある。クレーンゲームの勝敗を分けるのは技術もさることながら、「何回、チャレンジするか」だ。プライズが何であれ、3回、4回と試しているうちに取れるコツがつかめてくる。1回で取ろうと思わないことだ。人がやっているのをそばで眺め、かつ、自分がやる時も最低、5回はチャレンジする。そうすればほぼ取れるのではないか。わたしはそう感じた。
ただし、メロンのような人気のあるプライズのゲーム機には必ず行列ができている。後ろに並ぶ人は無言で「早くやめろ」という圧をかけてくる。ゲーム機を離れる人は試技をあきらめるというより、後ろの人の圧に負けてしまう。
革命には行列者がつきものなのだろう。行列者たちに負けない強いメンタルを持つか、もしくは行列がないゲーム機を狙い、独占して立ち向かうことも重要だ。
カレーセットを得た人を見た
船橋のクレーン横丁極は2400平方メートルの店内に370台のクレーンゲームがある。どこを見てもクレーンが並んでいた。百円を投入するクレーンではメロン、カレーセット、飲料、ポテトチップスの大袋、カレールー、あるぬいぐるみなどが人気だった。カレーセットとはカレールー、にんじん2本、玉ねぎ2個、じゃがいも4個がひとつになったものだ。
カレールーとにんじん、じゃがいも、玉ねぎを買ったら千円はするだろう。それが運に恵まれれば百円で取れるのだから、そのクレーンは大人気で、人だかりができていた。見ていたら、主婦と思われるチャレンジャーはさっとボタンを押して、百円でカレーセットを手にして、そのままスタスタと歩き去っていった。手練れの人だった。買い物するのと同じ感覚でカレーセットを手中にしていた。
「夕食はカレーにする」と決めていても、スーパーに買い物に行ったら、カレールーと野菜だけで終わるはずがない。ついつい総菜用のとんかつを買って、「カツカレーにしよう」と思う人もいるに違いない。あるいは、卵をカゴに入れてから「オムカレーも作ればいいんだから」と自分を納得させる人だっているだろう。チャツネ代わりに干しぶどうを買う人だって少数かもしれないがいるようにも感じる。
つまり、スーパーで食品を買う時は誰でも「ついで買い」をしてしまうのである。ところが、クレーン横丁でカレーセットを取ったら、「ついで取り」はしない。カレーセットを取ったら、そのうえまたにんじんや玉ねぎを取ろうとは思わない。「ついで取り」のないのがクレーンゲームなのである。
ストレスを発散するために爆食いをする人がいる。そのためにスーパーで食品を大量に買ってしまう。
クレーン横丁極では「爆取り」する人には出会わなかった。自分が欲しいと思った日用品、食品を狙い定めて、そのうちのいくつかを取れたらそれでよしとするようだ。クレーンゲームはギャンブルではなく、いちご狩り、ぶどう狩りのようなものだと思われる。
場内には「十円クレーン」のコーナーもあった。ファミリー客のうち、小さい子どもたちがチャレンジする場所だ。プライズを見ると、指輪、ブレスレットといった女児用のそれが多かった。
また、男児が狙っていたのは百円のクレーンの食品、飲料だった。おそらく、母親から「あんた、器用だから、じゃがいもを取ってきなさい。はい、百円」などと命令されたのではないか。母親の方を向いてうなずいていたからだ。
メンタルのゲーム
さて、30分ほど詳細に見学した後、わたしは決心した。