サービスの達人に会う
クレーンゲームにおけるサービスの達人とは、現場にいる人ではない。プレーヤーが欲しくなるプライズ(景品)を仕入れる人だ。「クレーン横丁極」のプライズを仕入れている人は野崎高。イオンファンタジーの社員である。彼の肩書は商品本部プライズグループの「スペシャライズドプロダクトマネジャー」。スペシャライズドな達人だ。野崎が勤めるイオンファンタジーはイオンの子会社で海外も含め約1300店のアミューズメント施設、プレイグラウンドを運営している。野崎とは海浜幕張駅の近くにあるイオンファンタジーの本社で会った。
応接室に入ってきた野崎はスペシャライズドな服装の人ではなかった。ごく普通のシャツを着た中肉中背でにこやかな、若い雰囲気の、おじさんだったのである。
野崎は抑制した声で、さまざま、説明してくれた。
説明の前に彼はこう言った。
「僕は仕事柄、日常的にクレーンゲームをやります。しかし、取る才能はないです。はっきり言って、他の人よりもヘタです」
その言葉に嘘はないのだろう。ヘタでもプライズを考える才能があればそれでいい。
「当社で出店を加速しているのがクレーンゲームで、私はクレーン横丁極の景品の調達を主に担当しております。当社は昔からモーリーファンタジーというアミューズメント施設を運営しています。そこではクレーンゲームは遊びのひとつでした。メダルゲーム、乗り物などさまざまな遊びのひとつだったのです。そのうち、クレーンゲームが人気となり、専門店であるクレーン横丁極を作りました。クレーン横丁極はクレーンゲームだけに特化した業態で、現時点では全国7店舗あります。出店を始めてから1年と少しなので、業界のなかではまだ新参者ですが、2030年までに60店舗に増やす計画で、月に1店舗くらいのペースでこれからどんどん数は増えていきます。野地さんが遊びに来てくださったコーナン船橋店は首都圏でも大型の店舗で、当社では売り上げ、面積ともにナンバーワンです」
ちなみにクレーン横丁極の仕様は次の通りだ。標準面積が1000平方メートルから3000平方メートル。1店舗あたりの年間売り上げが3億円から10億円。モーリーファンタジーのそれが平均1.2億円だから、クレーンゲーム専門店の方が売り上げは大きい。主な顧客は平日が主婦層で、休日は子ども、お父さんが加わる。営業時間は10時から23時で、土日祝日には1日に4000人がやってくる。滞在時間は人によってまちまちだが、30分から1時間くらいと推定している。使う金額はこれも人によって違うけれど、2000~3000円が平均ではないかと野崎は考えている。
そして、野崎自身は他社のクレーンゲーム店へ行き「実際に数千円は使って、勉強させていただいている」。
野崎は他社では、いいお客さんなのである。
「ぶどう狩りのようなもの」
クレーンゲームのプライズの大きな変化については、次のように考えている。
「食品が目立つようになったのは2、3年前かなと思うんです。僕は15年前からアミューズメント業界で働いてはいるのですけれど、メロンや野菜を置く発想は一切なかったから、最初はびっくりではありました。でも今となっては当たり前です。
今の目玉は120グラムの冷凍ステーキ肉でしょうか。クレーンの中を冷凍庫にしてパックのステーキ肉を入れたらこれがもう大人気になりました。我々は法律(景品表示法)で、仕入れ価格が千円以上のものを基本取り扱うことができない。だから、その範囲内でプライズを探してくるしかない。野菜、果物は季節によって変わります。メロンが終わればシャインマスカット。その後はいちごとか……。船橋だと店から2キロの距離に船橋市地方卸売市場があるので、そこから地元の青果を仕入れています。ほんとうはイオングループとしての調達網を活かした方がいいのでしょうけれど、今後の課題ですね。生鮮食品が人気ですけれど、日用品も人気ありますよ。5箱入りティッシュペーパーの2セット、トイレットペーパー12ロールが人気です。
クレーン横丁ではアームで掴むタイプよりも、アームの先に付けられたリングでフックを釣り上げるものが多い。この形式がもっとも難易度が低いから、誰でもやれる。もちろん、プライズによってはフックの開き具合、リングの大きさなどの設定を変えて難易度を調整しています。
ただ、YouTubeの動画で取り方を予習することもできるから、どの機械でも取るのがめちゃくちゃ難しいということはありません。
船橋の店では入ってすぐのところに、冷凍のお肉とか果物とか、目玉になる景品を置いています。店では『一丁目一番地』と我々は呼んでいます。そこでメロンなどを獲得していただく。
それと、生活に根付いたものをなるべく取りやすくしてあります。僕は他社の店へ行くと大きなぬいぐるみとかフィギュアを取るんですけれど、毎日のように行っていたら、うちの奥さんから『いらんもんばっかり取ってこなくていい』と怒られたんです。その点、トイレットペーパーとかレトルトカレーなら、いくらでも持って帰ることができます。日用品を置くようになったのは自分の体験もあるかもしれません。
お客さんはただ景品を取りたいというより、楽しい時間にしたい、遊びながら買い物をしたいんじゃないかな。感覚的には、ぶどう狩りとかいちご狩りに近いのかなっていう風に思っています。フィギュアだったり、ぬいぐるみだったりはもちろん昔から人気ですが、今までなかった日用品、食品っていうジャンルが品揃えに追加されたことで、クレーンゲームの魅力が増したと思っています」
入れたいものと、入れてはいけないもの
さて、野崎はどうやって新しいプライズを考え出すのか。
彼は答えた。