中国が米国に追いつき、追い越すのはますます難しくなってきた。中国の名目GDP(国内総生産)は、2015年には米国の6.1割であったが、2025年は6.4割と微増に留まっており、一昔前ほど中国が米国を抜く話は聞かれなくなった。しかしこの10年で、中国の存在感は急速に高まっている。経済規模や軍事費がさらに増大したこともあるが、そればかりではない。質の面でも、AI(人工知能)やロボットといった先端科学技術で米国を追い越し始めたし、なによりも外交の対外発信力が強まった。習近平政権が2013年から中国の独自の知識体系(「自主的知識体系」)の強化に取り組んできた1結果でもある。
対外発信の強化は、国際社会における発言権を取り戻す動きであり、欧米主導の国際社会で形成されてきた影響力のバランスを中国に有利なものとする試みでもあった。中国外交の自己主張の強まりの背景に、中国国内の知的作業の積み重ねがあったのである。
「普遍的価値」の解釈権をめぐる挑戦
「普遍的価値」の再定義も、そうした作業に含まれる。西洋文明は人類の1つの到達点であり、当然、普遍性を持つ。その価値観と論理は普遍的なものと見なされ、戦後の国際秩序は、これを基礎とした上に築かれた。戦後、米英(仏)、特に米国は圧倒的な力を持った。国際ルールは彼らが定めたものだが、その解釈も運用も、彼らに有利なように行われた。
欧米の有利はかなり露骨であり、日本もその被害を受けている2。欧米主導の国際秩序は、ソ連の利益と衝突する場合が多く、ソ連は支配下の国々を、もう1つの国際秩序に組み込み対抗した。1990年代初めのソ連崩壊により欧米主導の国際秩序に吸収され、ここで初めて全地球をカバーする戦後国際秩序が出来上がったが、それを支える国際ルールの解釈と運用の面では依然として米国主導だ3。中国は習近平政権の登場とともに、それに対し正面から対抗し始めている。