※本稿は「週刊新潮」2018年5月3日・10日号に掲載された特集を元に再構成したものです。また、年齢や肩書、年代表記等は当時のものです。
開高健の行きつけだった秘境の宿
山間部の温泉地には、厳しい雪に閉ざされ冬季休業する宿も少なくない。そうした山峡のいで湯が次々と再開するのが、ゴールデンウイークの時期である。
例年4月頃に宿開きを迎えるのが「丸沼温泉 環湖荘(かんこそう)」だ。群馬県片品村のさらに奥、標高1430メートルの“関東の秘境”に建つ一軒宿の前には、手つかずの湖が広がっている。
この丸沼に、開高健が初めてやってきたのは、昭和44(1969)年3月のこと。開高といえば、その4年前に書いたベトナム戦のルポルタージュで名を馳せたが、昭和43(1968)年、雑誌「旅」で〈私の“釣魚大全”〉の連載を始めて釣りにも傾倒。釣りの随筆『フィッシュ・オン』(新潮文庫)の基となる旅に出る直前、新境地を拓くタイミングだった。……