経済・ビジネス

急増中の資産1億「いつのまにか富裕層」が今すぐ対策すべきこと

2026年7月24日


<span>急増中の資産1億「いつのまにか富裕層」が今すぐ対策すべきこと</span>
特徴は資産運用への無頓着さ

給料は上がらないのに、物価高は止まるところを知らない。富裕層なんて自分とは無関係……などと決めてかかるのはまだまだ早い。実は近年、知らないうちに“億り人”になっていたというケースが増加中だとか。“いつの間にか富裕層”の実態と落とし穴に迫る。

特別なことはなにもしていないのに… 

 富裕層と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。経営者、起業家、はたまた投資家……。たしかに、こうした人々の多くも富裕層に含まれるにちがいない。しかし目下、急増中だという“いつの間にか富裕層”は若干ニュアンスが異なる。

“いつの間にか”勢について経済部デスクが解説する。

「金融業界では一般的に、1億円以上の純金融資産を保有している世帯のことを富裕層と定義しています。野村総合研究所によれば、2023年の時点で日本には165万世帯の富裕層がおり、これは全世帯の2~3%にあたります。このなかには5億円以上の超富裕層も含まれる。富裕層は13年に100万世帯を突破していますが、どれほど増えているか、一目瞭然です」

 この富裕層のうち、従来にはあまり見られなかったタイプが“いつの間にか富裕層”である。

「彼らは基本的に普通のサラリーマンで、高収入を得ているわけではありません。しかし保有していた株式やNISA、不動産などが高値になり、知らないうちに1億円以上の資産保有者になっていたというパターンが増えているのです」(同)

 ファイナンシャルプランナーの井戸美枝氏が言う。

「実際、私のまわりでも、“十数年ずっと積立を続けていたら、知らない間に1億円を超えていた”という声をよく聞きます」

 井戸氏によれば、彼らにはある特徴がある。

「投資に熱を入れている人とはちがい、彼らは株価のチャートや自分の口座をそれほど頻繁にはチェックしません。企業型DC(企業型確定拠出年金)の口座を持っていても、1年に1回ログインするかしないか、という人がほとんど。この“チェックしない”という点が、結果として長期保有につながり、複利の効果を最大限に引き出すことになったのです」

 そして、こんな実例を挙げるのだ。

「大手自動車メーカーの子会社が集まる地域で、退職金にまつわるセミナーの講師をつとめた際のことです。そこには地方でネジや部品を作る工場に勤務されている方がたくさんいらっしゃいました。お給料自体は、決して世間一般でいう高年収というわけではありませんでした」(同)

 彼らは若い頃から、退職金の積立制度を利用し、地道に運用してきた。

「特別なことは何もせず、仕組みに則って積立を続けていただけなのに、退職するときになってフタを開けてみれば、1億円近い資産を持つ富裕層になっていたのです」(同)

 実に羨ましい限りだが、そもそも、一体なにが起こっているのだろうか。

「現在、日経平均株価は約7万円前後まで上がっていますが、リーマンショック後の09年3月頃はわずか約7000円でした。この17年あまりで、およそ10倍になったのです」

 そう語るのは、ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏である。

「なぜ今これほど日本株が強いのか。理由は主に二つあります。一つは、半導体株の値上がりです。日本は半導体そのもののシェア争いには敗れましたが、半導体を作るための製造装置や部材の分野では、世界トップクラスの企業がしっかりと生き残っています」(同)

TOBで2億円の現金を手にすることに

 どんな企業かというと、

「『アドバンテスト』や『レーザーテック』ですね。さらに半導体パッケージ基板の『イビデン』や部材の『レゾナック』なども、AI相場のなかで株価が大きく化けました。これらの企業が世界的な半導体需要を支えていることで、日本市場全体の底上げに寄与しているのです」(同)

 株価上昇のもう一つの要因は、

「長年続いたデフレを脱却し、インフレになったことです。物価が上がることで、企業は適切に価格転嫁を行い、収益を上げやすくなりました」(同)

 こうした要素を背景に、“いつの間にか”勢が続々と生まれたわけである。

「高齢者の中には、1980年代から90年代にかけてのバブル期に、当時もてはやされていた株を高値で買ったままバブル崩壊を迎え、損切りもできずに数十年放っておいた、という方が大勢いらっしゃいます。普通なら失敗談で終わるところですが、今のAI、半導体革命がその運命を一変させたのです」(同)

 では“いつの間にか富裕層”にあやかるべく、当事者から実例をご教示願おう。

 現在80代の森山さん(仮名)は、60年頃、ある会社に入社した。

「入社から30年近く経て、私の会社は株式会社になりました。その際、社員持株制度を利用して、毎月10万円の給与天引きで持株を始めました」

 90年代に入り、会社は上場することに。

「当時、取締役員になっていたので、自社株はたくさん持っておくに越したことはないと思い、買い増ししました。昔のことで記憶は不確かですが、合計でおよそ4万株、720万円分ほど買ったでしょうか」(同)

 00年代に入って、森山さんは退職した。

「株の知識はあまりありませんが、会社への愛着もあったので、株はずっと保有していました。20年以上にわたって配当金は毎年およそ240万円。退職後は貯蓄と年金とこの配当金で生活していました」(同)

 が、数年前に株を手放さざるを得なくなってしまったという。

「TOB、つまり株式公開買付されることになったのです。市場に売るか、買収企業に買い取ってもらうか、二択を迫られました。調べたところ、買収企業に買い取ってもらうほうが高く売れることがわかった。1300~1400円ぐらいだった株価が5000円台になって、私はおよそ2億円を得たのです」(同)

 入社以来40年以上にわたって勤め上げた会社への愛着から保有し続けていた株が、にわかに森山さんを億万長者にしたのである。とはいえ彼の場合、諸手を挙げて喜んだわけではない。

「買収されることで私の会社がなくなってしまう点は悲しかったのですが、こんな金額になっているとは思わなかった。複雑な気持ちでした」(同)

 かくして“いつの間にか富裕層”となった森山さん。愛社精神ゆえの切なさを別にすれば、途方もない果報な出来事に思える。だが、人知れぬ心労が新たに待ち受けていた。

「配当金を得ていたので退職後は毎年確定申告をしてはいましたが、2億円もの大金はどうすればいいか、勝手がわからない。息子と一緒に税務署に赴き手続きをすると、所得税が3000万円、地方税は1000万円ほどで、2億円はたちまち1億6000万円になってしまいました」(同)

 心労はほかにもある。

「私が死んだ場合、妻には相続税がかからないようですが、二人の子供にはおそらく20%ほどの相続税がかかります。さらに妻が亡くなると、二次相続が発生して、さらに多くの相続税がかかってしまう。子供たちに迷惑をかけぬよう、今できることとして、一人につき年間110万円の生前贈与をすることにしました」

 実際、思いがけず“億り人”になった人々にとって、相続は頭痛のタネのようだ。

 相続実務士で『夢相続』代表の曽根惠子氏が語る。

「何十年も放置していた株が気づいたら億単位になっていたということで、相続について相談に来られる方は多いですね。株は金融資産ですから評価額が上がれば相続税も高くなる。高騰した不動産をめぐっても、トラブルが起こっています」

資産を動かせなくなるリスク

 両親から自宅を相続したある男性のケースはこうだ。

「都内の100坪の自宅が、いつの間にか評価額で1億円以上、時価だと2億円になっていた例があります。相続した男性は、ご兄弟から遺留分請求をされたのですが、評価額が高くなりすぎたため、それに応じて遺留分も高額になってしまった。結局、自宅を売却して支払いに充てざるを得なかったそうです」(同)

 悩みのタネはまだある。

 前出の森山さんが続ける。

「株の譲渡で得た2億円は、新たに開設した口座に振り込んでもらいました。すると、さっそく銀行から投資の営業がかかり、株を売ったことを知った証券会社からも営業をかけられた。税金でだいぶ取られることがわかっていたので、そのぶんを補えればと、営業ですすめられた株の運用を始めました」

 しかし、自身が認めているように、森山さんは決して株に明るくない。そしてそれは森山さんだけでなく、“いつの間にか富裕層”の共通点でさえあるのだ。

「先日“いつの間にか富裕層”になった方に資産状況を見せていただいたのですが、私なら絶対に選ばないような非常にバランスの悪い運用をされていました」

 そう話すのは先の井戸氏。

「その方は金融機関のアドバイザーから“今は円安ですから”と強調され、近い将来に使う予定があるお金までも、外貨に替えてしまっていたのです」(同)

 なぜこうした行動に出てしまうのか。

「彼らは“持ったことのない大金を減らしたくない”という強い不安を抱えます。その不安から、よくわからず、銀行や証券会社などの金融機関にすすめられるがままに、金融商品を買ってしまうのです」(同)

 さらに“気付くのが遅すぎた”なんて場合も。

「株式や不動産の値上がりで多額の資産を持っていても、本人の認知機能が低下し、資産を動かせないケースがあります」

 とは、司法書士法人ミラシア代表の元木翼氏である。

「家族であっても、本人の株式や不動産を勝手に売却することはできません。家族信託をしておけば、受託者が財産を管理できますが、本人が認知症などにより契約内容を理解できる判断能力を失った後では、家族信託の契約はできません。最近は、本人が元気なうちに契約を結び、判断能力の低下後は家族が株式を管理できる『家族サポート証券口座』も始まりました。ただし、株式の売却代金は本人名義の銀行口座に入るため、その預金を使うには別の対策が必要です。事前の備えがなければ、成年後見制度が必要になることもあります」(同)

 とはいえ、後見人の申し立ての手続きが複雑であることや、財産保護のために資産運用には回せなくなるなど、デメリットもある。

 なくて悩み、あっても悩む資産。落とし穴を前に立ちすくむか、富裕層になるべく立ち上がるか――。

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