カルチャー

「日本は食いものとエネルギーを他国に任せ、豊かな国と錯覚している」 作家・野坂昭如の残した激烈なメッセージ

2026年8月14日


<span>「日本は食いものとエネルギーを他国に任せ、豊かな国と錯覚している」 作家・野坂昭如の残した激烈なメッセージ</span>

 作家・野坂昭如氏の「反戦」への強い思いについては、代表作『火垂るの墓』のみで語れるものではない。2015年12月9日に急逝する数時間前まで綴られた日記などをもとにした作品『絶筆』でも、体験者ならではの思いが随所に綴られている。ここでは、2005年のエッセイ「文字がよぎった」をご紹介しよう。そこにはユーモアと社会への警鐘が混在した、野坂氏らしいエッセイだ。なお、『絶筆』は現在、新潮QUEにて全文公開中である。

文字がよぎった

 風呂上がりに鏡に向かい我が身を検分。だらしない身体つき、締まりのない顔立ち、筋肉の落ちた下半身と、まことに無様なり。

 にしても、我が五体には違いない。頭髪は思いのほか黒い。僕の父親はハゲ頭だったから遺伝からすれば僕もハゲか、もっと白髪になろうかと想像していたこともあり、頭頂の薄さは別として心なしか以前より黒い感じすら覚え小さな喜びとする。

 胸板は薄っぺらだ、尻の肉は落ち、前はフニャフニャまことに心もとない。

 心細い頭髪を見て、「落武者みたい」と女房が云う。食後に歯磨きを強要されるがこんなに面倒とは思ってもみなかった。手入れが悪かったわりには何本か健在、大事にするよう歯医者の有り難いお言葉だがどうでもいい。医者の話によると、歯肉炎、虫歯などの雑菌からも肺炎を併発するらしい、アルコール消毒で済ましていた頃はよかった。

 食事は出された物は何でも食す。女房の機嫌如何でアルコール付きということにもなる。「水は噎(む)せるのに、ビールは噎せないのね」と皮肉られながら一気に流し込む。思ったより量は飲めない、裏切られた気分、前後不覚になるほど酔ってみたいものだ。

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